坐禅を始めてみよう
興味はあるけど、実際に坐禅をしたことは、ない。
でも機会があればやってみたい……!
坐禅についてそのような思いを持っている方、いらっしゃいませんか?
そんな方のために、初心者でも自宅で一人で坐禅を始めることができるよう、坐禅の仕方をご紹介したいと思います。
興味はあるけどまだ一歩を踏み出していないという方は、これを機にぜひ一度坐禅に挑戦してみてはどうでしょうか。
静寂に身を置くことの意味を、きっと感じることができると思います。
坐禅に適した環境
坐禅をするにあたって、まずはその準備段階となる注意点などを押さえておきましょう。
時間帯
坐禅に適した時間帯というのは、特にありません。
人によって好みの違いはあるでしょうが、早朝でも午前でも午後でも夕刻でも夜でも、基本的にいつでも坐禅はできます。
ただし、それとは反対に坐禅に適さない時間というのはあります。
食事の前後です。
極端に空腹の時や満腹の時は、坐禅をしても集中することができなかったり、お腹が圧迫されて苦しかったりします。
坐禅は苦行ではなく心を調える行いなので、落ち着いて坐禅に取り組むためにも食事の前後だけは避けるようにしましょう。
服装
坐禅は体を窮屈にしないようにゆったりとした服装で行います。
デニム素材やベルトなど、運動に適さない服装は避けましょう。
動きやすい服装を選んでいただければ、だいたいどのようなものでも問題ありません。
また、坐禅は裸足で行いますので、ストッキングや靴下などは脱いで行います。
足を組んだ時に裸足では寒いという方は、足を組んだその上から毛布などをかけてみるのもよいでしょう。
場所
坐禅は基本的にはどのような場所でも行うことができます。
お寺でなくても、自宅でも庭や公園などでも坐禅はできます。
現に、ブッダは木の下で坐禅をして悟りを開いています。
ただし、なるべく雑念が入り込まずに集中しやすい場所のほうが坐禅に適した環境であるのは間違いありません。
ですので、なるべく静かで視角に動く物が入り込まないような場所で坐禅をすることをオススメします。
坐蒲について
坐禅はお尻の下に坐蒲(ざふ)を置き、その上に坐ります。
畳に直接坐って坐禅をするのでもできないわけではありませんが、直接坐るとどうしても腰骨が立たせにくく、背骨が伸ばしにくく、重心が後ろになりがちで、姿勢が崩れやすくなります。
なので可能であれば坐蒲を使用することをオススメします。
足を組んで坐る場合、地に接しているのはお尻と両膝の3点だけになります。
この3点で三角形を結ぶようにして坐ると上体がとても安定しますので、お尻と両膝の3点で体を支えることを意識して坐りましょう。
坐禅をしたことのない方は当然のことながら坐蒲を持っていないと思いますので、そのような場合には座布団を半分に折って坐蒲の代わりにしたり、クッションなど適度に高さのある物をお尻の下に置いたりといった方法でもかまいません。
枕を坐蒲の代わりにしているという方もいます。
背筋が伸び、姿勢を長時間保てるよう、自宅にある物で工夫してみてください。
また、坐禅に慣れてきて本物の坐蒲で坐禅をしたいと思うようになったら、仏具店などで坐蒲を購入してみるのもよいと思います。
私が永平寺で修行していた時から使っている坐蒲は、永平寺の御用達でもある西浦法衣店さんで購入した坐蒲です。
坐蒲について詳しく知りたい方、西浦さんでの購入の仕方を知りたい方は、下の記事をどうぞ。
坐禅の目的
坐禅では3つのものを調えることを目的としています。
3つのものとは、身と息と心です。
それぞれを調えることを
「調身(ちょうしん)」
「調息(ちょうそく)」
「調心(ちょうしん)」
と呼んでいます。
「ととのえる」というと「整」の字のほうが相応しいのではないかと思う方がいるかもしれません。
たしかに、たとえば「身をととのえる」ことが「姿勢を正す」ことだけなら「整う」と表記したほうが適切でしょう。
ですが、実際には綺麗な姿勢を目指すと同時に、体全体が「調和」したリラックス状態を保つことが、坐禅における「ととのえる」の意味となります。
姿勢を「整える」のは大切ですが、力を込め過ぎては「調う」にはなりません。
このあたりの感覚は実際に坐禅をしてみないことにはわかりませんので、実践しながら「調和」を感じとっていきましょう。
調身「姿勢を調える」
では、はじめに身を調えることに意識を向けていきましょう。
具体的には腰骨を起し、背筋を伸ばし、胸を開き、肩の力を抜き、顎を引き、口を閉じます。
顎は引きますが、頭を下げてはいけません。
顔は前を向いたまま、視線だけ落とします。
自分の頭の上に1本の紐がついていて、それが天上とくっついており、自分が空中にブラブラ吊り下げられているイメージで坐ってみましょう。
視線はだいたい半畳ほど先の床に向けます。
すると自然に伏し目がちになり、瞼が半分閉じたような状態になります。
これを半眼といいます。
仏像の目は、よく半眼になっていますね。
坐禅中は目を見開くのではなく、また閉じるのでもなく、この半眼の状態を保つようにしましょう。
調息「呼吸を調える」
姿勢が調ったら、次に呼吸を調えます。
坐禅中は口を閉じていますので、呼吸はすべて鼻で行います。
呼吸を調えるのには少しコツと慣れが必要かもしれません。
まず、吐く場合も吸う場合も、一定の強さでゆっくりと深く呼吸を行いましょう。
1、2、3、4、5、6、7、8と心のなかでカウントをとりながら行うとわかりやすいと思います。
1で強く呼吸してしまうと7、8のあたりが苦しくなってしまうので、自分自身に合った一定の速度を把握してみてください。
また、坐禅は腹式呼吸で行います。
胸式呼吸と何が違うのか疑問に思われるかもしれませんが、細かい話は抜きにして、要するに深くゆっくりとした呼吸を目指しているのだと思ってください。
つまり、浅く早い呼吸を、深くゆっくりとした呼吸へと変えることが呼吸を調えるということになるのだと、とりあえず理解していただければ大丈夫です。
呼吸というのは毎日、いや毎秒常に無意識に行われているものですが、無意識に行えるものだからこそなかなか呼吸に意識が向けられることはありません。
そこで、実際に坐禅をする前にまずは呼吸に意識を向ける練習を一度してみましょう。
腹式呼吸の練習
まず仰向けに寝転がってください。
どでーん、と大の字にならなくても大丈夫ですが、手足を少し横に広げて、目をつむって、体がリラックスできるようなゆとりのある姿勢で横になります。
次に、お腹の上に両手を乗せます。
すると、呼吸に合わせて腹が凹んだり膨らんだりするのが手を伝わって感じられると思います。
これだけのことで自ずと意識が呼吸へ向いていきます。
呼吸に意識を向けるだけでリラックスする方もいます。
この状態で1から8までカウントをとりつつ深くゆっくりとした呼吸を行ってみましょう。
しばらくその呼吸を続け、腹で呼吸をするという感覚が摑めたら、次に実際の坐禅へと移り、坐禅中もこの呼吸の感覚を思い出して呼吸をしましょう。
調心「心を調える」
姿勢と呼吸を調えたら、最後に心を調えます。
しかしここで注意しておきたいのが、心とは調えようと思って調うようなものではないということ。
じつは禅では、心というものは身と息が調えば自ずと調うものだと考えられており、あえて心を調えようとはしません。
むしろ、心を調えようと頭のなかに意識を生じさせる状態は良い状態とは言えず、したがって坐禅中は何も考えないようにします。
ただし考えないようにするといっても雑念は湧いてきますので、それらは消そうとも思わず放っておきましょう。
消そうとする意識すら、1つの意識となってしまいます。
無心になろうとか、雑念を消そうとかいう思いがすでに雑念ですので、「意識と対峙しない」「放っておく」だけで大丈夫です。
意識を向けることから執着は起こるので、何にも意識を向けないことで執着から離れた状態を保ちましょう。
極論を言えば、「心を調える」という思いすら忘れ去ることが、心を調えるということの意味になるでしょうか。
このような身と心の関係について興味のある方は、下の記事もどうぞ。
実際に坐ってみよう
禅寺で坐禅を行う場合には、それなりの作法があります。
しかしここではそういった作法には重きを置かず、あくまでも初心者の方が1人で行う場合を想定して坐禅の手順を説明していきたいと思います。
まず、坐禅をする場所を決め、坐蒲や座布団などを床に置きます。
曹洞宗は壁に向いて坐禅をするのが基本ですが、気がすすまないのであれば内側を向いて坐禅をしてもかまいません。
部屋のなかで一人で坐禅をしているのであれば、内側を向いていても特に問題はありません。
坐蒲等を置いたら、その上に腰を下ろして坐ります。
坐る位置ですが、坐蒲の中心よりもやや前のあたりに腰を下ろしたほうが坐りやすいです。
あまり奥に腰を下ろすと、膝が床から離れて不安定になります。
足の組み方
いよいよ足を組んでいきます。
足の組み方にはいろいろな方法がありますが、僧侶は主に結跏趺坐(けっかふざ)という坐り方をします。
結跏趺坐
結跏趺坐は、左右両足とも腿の上にのせて足を組む方法になります。
組む順番ですが、はじめに右足を左足の腿の上にのせます。
その次に左足を右足の腿の上にのせます。
もっとも正式な足の組み方と言える結跏趺坐ですが、股関節などが硬いと足を腿にのせることができません。
また頑張ってのせることができても、膝が床についていなければ姿勢が安定しません。
ですので、両膝がきちんと床についているのであれば結跏趺坐をオススメしますが、下の画像のように膝が床から離れてしまうようであれば、次項以下の方法をオススメします。
半跏趺坐
半跏趺坐(はんかふざ)は、文字どおり結跏趺坐の半分、つまり片足だけを腿の上にのせる足の組み方になります。
一応、半跏趺坐では左足を組むことが多いですが、右足のほうがのせやすければ右でもかまいません。
組まないほうの足は、腿の下に入れます。
あぐらのような状態です。
半跏趺坐は決して略式というわけではありません。
歴とした坐法の1つです。
なので結跏趺坐でも半跏趺坐でもどちらでも問題ないのですが、どちらにしてもお尻と両膝の3点で体を支えて安定させるということが重要ですので、忘れないようにしてください。
正座
体が硬く、足を組むことが難しいようであれば、正座をオススメします。
正座の場合でも坐蒲を用いたほうが腰を立てやすく、また足も痺れにくくなります。
また、足が痛いという場合には先に座布団を敷き、その上に坐蒲を置いて坐るのもオススメです。
結跏趺坐などの場合も同様で、膝が痛いという方はまず座布団を敷き、その上に坐蒲をおいて膝が座布団の上におさまるように坐るのもよいでしょう。
坐禅は苦行ではありませんので、坐禅に集中できる環境を整えることは大切です。
椅子坐禅
足を曲げたり腰を下ろしたりすること全般が難しいという方もいらっしゃいます。
そういった方には椅子坐禅をオススメします。
坐禅は坐る禅ですので、もちろん椅子に坐った状態でもできます。
腰骨を立てて背骨を伸ばすことを意識し、浅めに椅子に坐り、足の裏をしっかりと床につけ、姿勢を安定させましょう。
椅子坐禅はここ数年で急速にクローズアップされてきた坐法ではありますが、どのような健康状態の方にも坐禅に親しんでいただけることの重要性を考えれば、必然の坐法と言えるかと思います。
足が悪いから坐禅はちょっと……という方にこそ一度試していただきたい方法です。
左右揺振
さて、足を組むなどして坐る姿勢が調ったら、次に体を前後左右に揺らして緊張をほぐします。
身心ともにリラックスした状態で坐禅をすることが理想ですので、体が強ばったまま坐禅をしないよう、準備運動のつもりで体を動かしましょう。
はじめに体を前後に揺らします。
前に上体を倒した時に息を吐き切ると、後ろにのけ反る時に自然と体が息を吸います。
そうしてじっくりと体を伸ばしていきましょう。
体がほぐれたと思ったら、次に左右に体を揺らします。
最初は大きく揺らし、徐々に振れ幅を狭くして、最後には自然と中心となる位置におさまるようにします。
振り子が自然と動きを止めるようなイメージで、左右に揺らした体を徐々に静止させていきましょう。
法界定印
左右に揺らした体が止まったら、次に下の画像のように手で印を結びます。
これを法界定印(ほっかいじょういん)といいます。
印を結んだ手は、足の付け根のあたりにそっと置きます。
法界定印の結び方ですが、まず右の手の掌を上に向けた状態で、足の付け根のあたりに置きます。
次に左の手を、同じように掌を上に向けた状態で右手の上に重ねます。
掌は重ならず、指と指が重なるくらいにします。
それができたら両手の親指の先端を、そっと合わせます。
親指と人差し指の間に卵のような楕円形が出来上がりますので、その形が潰れたり尖ったりしないよう、丸みを帯びた状態で維持しましょう。
坐禅の時間
ここまできたら、あとは坐禅に集中するだけです。
鼻の穴を通る風の感覚や、ゆっくりと膨らんでは凹むお腹の動きなど、普段は意識することのない自分の体に意識が向かい、ゆったりとした時間が流れます。
坐禅中はとにかく呼吸以外にすることがありません。
それだけに呼吸法は非常に重要です。
寝転がったときの呼吸法を思いだし、深くゆっくりとした呼吸に集中してください。
ただ呼吸だけに集中して、坐禅のためだけの贅沢な時間を過ごしていきましょう。
坐禅をしている時間ですが、永平寺などの禅寺ではだいたい45分ほど行います。
この45分を1炷(いっちゅう)と呼びます。
1炷とは線香1本が燃え尽きる時間という意味であり、それがだいたい45分であったことから、現在でも坐禅は1回約45分で行われています。
坐禅の時間に関しては、以下の記事も関連した内容になっています。
かなり、お遊びの要素を含んだ内容となっていますが……。
坐禅に慣れる
坐禅に上手い下手があるというのはあまり良くない言い方ですが、早く集中することができるようになるにはある程度の慣れが必要になってきます。
最初から45分坐るのはとても長く感じられることと思いますので、慣れないうちは15~20分ほどを目安に坐ってみるといいかもしれません。
ただし、集中した瞑想状態に入るには個人差はあれ15分ほどかかると考えておいたほうがいいと思います。
なので坐ることになれてきたら、30分ほどは坐禅を続けてみましょう。
連続して坐禅をする場合
永平寺などの修行道場では、夜の坐禅(夜坐)は2炷行われます。
その場合、1炷が終わったら一度坐蒲から立ち上がり、ゆっくりと辺りを歩きます。
これを経行(きんひん)といいます。
経行は「1回呼吸をしたら半歩進む」という、非常にゆっくりとした歩き方になります。
1呼吸ですので、1度息を吐き、次に息を吸い、そしたら半歩進む、という具合です。
半歩の進み方もちょっと変わっており、最初に右足を出したら、その後は「左・左・右・右・左・左・右・右……」と、2回同じ足を動かします。
図で説明すると以下のようになります。
右が半歩前に出ると、次に左が追いつきます。
そして今度は左が半歩前に出て、次に右が追いつきます。
(※異なる作法もあります)
このような細かな作法に則って家で経行を行う必要はないかもしれませんが、続けて坐禅を行う際には一度立ち上がって、静かに辺りを歩いて足を伸ばしましょう。
経行は歩く坐禅とも呼ばれており、足を伸ばすといっても心は坐禅のままです。
次にまた坐禅を始めた時、スムーズに集中することができるよう、意識は坐禅の際と変わらずに行いましょう。
坐禅の効果
坐禅は何か効果のようなものを求めて行うわけではありません。
ブッダが坐禅によって悟りを開いたことから、坐禅を仏の行いの最たるものとして敬い、ただ坐禅をすることに徹します。
こうした坐禅観を只管打坐(しかんたざ)といいます。
ただし効果を得ることを目的としなくても、結果的に効果を受けているということはもちろんあります。
坐禅をしている時には、リラックスを示す脳波であるアルファ波が出ていることがわかっており、さらに深く坐禅に集中しているときにはシータ波も確認されています。
リラックス等を目的として坐禅に取り組むのは本来の禅の趣旨とは異なるかもしれませんが、僧侶ではなく一般の方が行う坐禅であれば、こうした効果・効用といった事柄を全面的に否定する必要もないと思います。
いろいろな状況に合わせた坐禅があってよいでしょう。
坐禅ができるお寺
1人で坐禅をしていると、「本当にこれで合っているのか」といった疑問が生じてくることがあるかもしれません。
そうした場合には、一度坐禅会に出席してみるのもオススメです。
1人ではわからなかったことが、禅寺で坐禅をすることでわかるようになるかもしれませんし、指導の仕方が異なれば、新しい発見もあることでしょう。
複数名で坐禅をしてみるというのも、よい経験になると思います。
ただ、そのような坐禅会を開いているお寺を知らないという声も多いことでしょう。
そんなときは、下のサイトを参考にしてみてください。
曹洞宗の寺院に限られますが、全国の坐禅会を開いている寺院の情報が網羅されていますので、もしかしたら意外と自宅の近くで坐禅会が行われているかもしれません。
本堂での坐禅では、細かな作法に則って坐禅が行われることも多いです。
もちろん指導役の僧侶がすべて教えてくれますので不安になる必要はありませんので、作法に則って坐禅をしてみましょう。
自宅とは違った雰囲気のなかでの坐禅も、よい経験になります。
坐禅に関する動画
最後に、坐禅に関する動画を2つご紹介します。
1つ目は坐禅の仕方に関する動画です。
続いて2つ目は、曹洞宗大本山永平寺第78世貫首を勤められた、宮崎奕保禅師の坐禅に関するインタビューをおさめたものです。
参考になる言葉がたくさんありますので、興味があればぜひ一度ご覧ください。