禅の視点 - life -

禅語の意味、経典の現代語訳、仏教や曹洞宗、葬儀や坐禅などの解説

坐禅(座禅)で使う坐蒲(座蒲)の豆知識 ~選ぶポイントや手入れの仕方など~

f:id:zen-ryujo:20170125204124j:plain

坐禅で使う「坐蒲」の豆知識

坐禅をする際には、お尻の下に丸形のクッションのようなものを置きます
これを坐蒲(ざふ)といいます。


クッションと言ってしまうとじつは坊さんの世界では怒られることがあるものですから、坊さんの世界では「丸形の蒲団」と言う慣わしになっていたりもしますが、蒲団じゃあ、ちょっと、ねぇ……。


坐蒲を知らない人が「丸形の蒲団」という言葉からイメージするものは、まさに「丸い形をした蒲団」になってしまうのではないかと思えてしかたがないので、やはりここはお叱りを承知でクッションと呼んでしまいましょう。
それでは知られざる坐蒲について説明したいと思います。



坐蒲と姿勢の関係

坐禅は体一つで行うことのできるものですが、唯一必要な道具を挙げるとすれば、この坐蒲。
仮に坐蒲がなくても坐禅が組めないことはありませんが、あったほうが断然坐禅がしやすいのは間違いなし
尻の下に何もないと、腰骨を立たせにくく、背中が伸びにくい。


坐禅において安定した姿勢をキープすることは極めて重要で、姿勢が崩れる(安定しない)と坐禅の質が下がってしまいます
どうにも集中できなくなるのです。
道元禅師も坐禅をする際には坐蒲を用いるようにと述べているので、坐禅の際には坐蒲(あるいは坐蒲に準ずるもの)が欠かせません。

坐蒲を購入するにあたって

地味に重要な坐蒲ですが、普段の生活ではなかなか目にする機会もなく、坐禅をしてみたいと思っていざこれを買おうと思っても、どう選んでいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。

「よくわからないからオススメの坐蒲を教えて」

と、そんなふうに頼まれたことも実際にあります。


様々な坐蒲で試し坐りをしたことがあるわけでもなく、坐蒲マイスター的な資格も有してはいませんが、それでも経験上「自分ならこれを選ぶ」というようなポイントは一応存在しますので、坐蒲選びの参考までにその辺りの話をしたいと思います。

坐蒲選びのポイントは「材質」

そもそも坐蒲とは、パンヤと呼ばれる植物性の「わた」を布で覆うようにして作られています。
どこで売られている坐蒲であっても、基本的には似たり寄ったりで大きな違いはないように思いますが、パンヤを覆っている布の材質だけはちょっと注意したほうがいいです


もっともよく目にする材質は綿で、坐禅会などを開いていて多くの坐蒲を保有している寺院などでは、ほとんどがこの綿素材の坐蒲。
私も永平寺で修行をしていた時、最初はこの綿素材の坐蒲を使っていました。
もっとも安く、スタンダードな感じがしたからです。


ただ、坐ってみてはじめてわかったのですが、この綿素材の坐蒲には大きな問題点があります
尻が滑りやすいのです。


屋根の上に積もった雪が、少しずつ下がってやがて地面に落下するような感じに似ていて、坐禅をしていても自分の尻が少しずつ前にズレていっているのがわかるのです。

……ズズズ……ズズ……ズズズズ。

と。


放っておけばいずれ畳にドスンッと落下することは避けられず、もうこれ以上は落下の危険性があるという限界に近づいたあたりで、もぞもぞと坐り直す。
これでは坐禅に集中できるはずもなく、尻が滑らない方法が知りたくてしょうがありませんでした。


それで、人に訊いたところ、それは坐り方の問題ではなく、坐蒲の材質の問題ではないかという意見をいただきました。
そこで別の素材の坐蒲に変えたところ、効果てきめん。
落下の恐怖から解放され、ようやっと坐禅に集中できるようになった次第です。


その別の素材というのが、ビロード
ビロード素材の坐蒲を用いるようになってから、格段に尻が滑りにくくなり、坐禅に集中できるようになりました
なので、これから坐蒲を買おうとしている方は、断然ビロード素材の坐蒲をオススメします。


金額は綿よりも2~4割ほど高い傾向にあるようですが、坐禅に集中できなければ坐蒲の意味をなさないので、多少奮発してでもビロード素材を選んだほうがいいと個人的には思います。


なので坐蒲選びの最大のポイントは、ビロード素材を選ぶこと。とにかくこれ。
最近は綿とビロード以外の布材もあるようで、ほかの素材の坐蒲の坐り具合についてはわかりませんが、とにかく滑りにくいものを選ぶことが第一。


 坐蒲選びで重要なのは、滑らない素材であること




坐蒲の大きさ

坐蒲についてほかに何か迷うことがあるとしたら、坐蒲の大きさくらいでしょうか。
だいたい直径30cm前後の坐蒲が主流であり、ほとんどの方はこのサイズで問題ありません。
小学生であってもこの大きさでなんとか坐れているので、大人であればまったく問題なし。


店によっては20cmという極端に小さな坐蒲を見かけることもありますが、少なくとも大人には向かないように思います。
逆に40cm近い巨大な坐蒲も存在しますが、こちらも特に大柄な方以外は必要性がないと思います。


そもそも坐蒲は中心に坐るのではなくて、端のほうに坐るもの
円周付近というか、端のほうに腰を下ろして、必ず両膝が畳に付くように坐らないと、坐禅の姿が安定しないのです
したがって大きさはあまり重要ではないとも言えます。
結局坐るのは坐蒲の真ん中ではないからです。


坐禅会などで、
坐蒲を楔(くさび)のようにお尻と畳の間に差し込むようなイメージ
と坐り方の説明されることがありますが、この言葉の意味するところというのも、つまりは端のほうに坐りなさいということ。
端に坐って、両膝でしっかりと畳を押さえて、尻と両膝の三角形の3点で坐ると、坐禅はとても安定するのです。


ただ、綿素材の坐蒲でこのイメージで坐ってみると、瞬時に畳の上に尻が落下する恐れが……。
なので端に坐るのが理想的な形ではあるけれども、あくまでも滑らないことが前提。
滑らなければ、この形は本当に安定します


中心に坐るのではなく、端のほうに坐るだけで背筋がシャンと伸びる。
坐蒲の中心に坐って膝が畳から浮いてしまっている方は、端のほうに坐るように心掛けてみてください。


 坐蒲は真ん中ではなく端のほうに腰をおろす


坐蒲の購入方法

今時はネットで何でも買えてしまいますが、ご多分に漏れず、もちろん坐蒲も買えます。
ビロード素材という点さえ間違わなければ、おそらくどこで売っている坐蒲でも坐禅をする上では問題ない機能を有していることでしょう。


ちなみに私は、永平寺の雲水の御用達となっている、福井の「西浦法衣店」さんで坐蒲を買いました。
西浦法衣店さんはときどき永平寺にやって来て、着物や仏具などで困っている雲水の注文を受けてくれる大変ありがたい存在なのです。
私も当時はなにかとお世話になったものです。


ビロード素材の坐蒲を届けてくれたのも西浦さんであり、おかげで落下の心配がなくなりました。
本当に助かりました。ありがとうございました。感謝しかありません。


西浦法衣店さんにはホームページがないようなので、購入希望の方のために連絡先等を記しておきたいと思います。
もし購入先に迷ったら、永平寺御用達の西浦さんから取り寄せれば間違いなし。


 株式会社西浦法衣店
 TEL:0776-22-6374
 坐蒲(ビロード)
 大(直径34cm)6000円
 中(直径28cm)5000円



私は身長170cmですが、大サイズでまったく問題ありませんでした。
おそらくは中サイズでも問題なかったでしょうけど。
ちなみに直径というのは、坐蒲の上下にある円形の布の直径であって、坐蒲自体の直径ではないので注意を。


 坐蒲選びで迷ったら、永平寺御用達の西浦さんに電話する




坐蒲の中身「パンヤ」

坐蒲の中にはパンヤが詰め込まれています。
パンヤというのはカポックという植物の実に詰まっている天然素材のわたのことで、枕やクッションの中身としても使用されています。


一般的なクッションでよく使用されるポリエステル綿と比べると固くてへたりにくく、耐久性に優れているのが特徴で、体重をかけてもへたらないことが重要となる坐蒲にとっては好都合の素材。
このパンヤが坐蒲の中にぎゅうぎゅうに詰め込んであり、大抵はちょうどいい量に調節されているのです。

坐蒲の中に入っているパンヤ
↑ 坐蒲から取り出したパンヤ。真っ白ではなく色が付いていて、触ると綿あめのような感じ。


坐蒲のパンヤを自分で増やしたり減らしたりということはほとんどしませんが、何十年と使っているとさすがにパンヤがへたることもあるとのこと。
そんなときは新しいパンヤを手芸店などで買って詰め直せばいいのですが、どうやってパンヤを坐蒲の中から出し入れするかご存じない方のために方法の説明を。

坐蒲の開け方

坐蒲には一見切れ目がなく、中身が出せないように密封されているように見えますが、じつは大抵の坐蒲には切れ目が隠されています(わかりやすく切れ目にチャックを付けている坐蒲もあります)。


坐蒲の周囲には布の折れ目のような襞(ひだ)がいくつもあって、このうちの1つがじつは切れ目になっていて、ここからパンヤを出し入れすることができるのです。
切れ目がなければパンヤを詰め込むことができないので、当然といえば当然なのですが……。

坐蒲の切れ目
↑ 坐蒲の切れ目。
 

もし、新しく買った坐蒲がパンヤが詰まりすぎで硬くて坐りにくいというようなことがあれば、ここから中のパンヤを少し減らしてみるといいかもしれません
パンパンに硬い坐蒲もよく滑ります。
もちろん、抜き取ったパンヤは捨てずにとっておいて、もうちょっと固さが欲しくなったらまた入れればOK。


長期間使用してへたってきても、ポリエステル綿を入れるのだけはやめたほうが賢明です。
ポリエステル綿は弱すぎて坐蒲には向きません。


それともう1つ注意点があって、パンヤというのは繊維が細かいからなのか理由はよくわかりませんが、とにかく凄まじく埃が舞います
なので鼻炎やアレルギーでお困りの方はマスク着用でパンヤに挑むよう、注意喚起を添えておきます。


 パンヤの量で坐り心地が変わる


坐蒲の手入れ

基本的に手入れと呼ぶほどのことは何もしませんが、たまに日に干すと弾力性が少々復活するといいます。
パンヤの水分が蒸発するかららしいですが、私はほとんど干したことはありません。


それとは別に、坐禅をしたあとに毎回坐蒲の形を整える作業というのがあって、これは必ずやったほうがいいです
坐ったままだと坐蒲がぺたんこになっており、次に坐る際に坐りにくい。
また、見た目的にも使いっぱなしのように見えてよろしくありません。


坐蒲の整え方ですが、ぺたんこになった坐蒲を手にとって、側面を畳に当てて、反対側となる天井側の側面(要するに上)から掌で押すというだけの簡単な作業です。


本来は親指で押すのだと永平寺では教わりましたが、パンヤはぎっしり詰まると意外と硬いので、女性や子どもには親指が痛いと思われます。力も入れにくいですし。
なので手の平で押したほうがやりやすい。


押しながら少しずつ坐蒲を回転させ、側面からは断続的に押し続けて、坐蒲をどんどん膨らませていく。
すると見事に膨らんだ坐蒲が出来上がり、整え完了。
この坐蒲を整えるという作業を終えるまでが坐禅の作法となるので、坐禅をしたら必ず坐蒲を整えることを忘れないようにしましょう


 坐ったあとは坐蒲をポンポンにする



ちなみに、この坐蒲を整える行為には名前がないため、「坐蒲を揉む」とか「坐蒲をポンポンにする」などと言われています。
ポンポンにする前と後では、下の画像くらいの違いが。

坐蒲を整える前
↑ Before

坐蒲を整えた後
↑ After


ポンポンにした坐蒲に坐ると、干したての蒲団に寝転ぶような、洗い立ての服に袖を通すような、妙に新鮮な心地よさがあります
坐蒲に坐って坐禅をする醍醐味の1つと言えるかもしれません。……大袈裟?


でもまあ一度は体験していただきたいので、未体験の方は是非やってみてください。