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カジノ解禁、統合型リゾート(IR)推進法案が成立される日

カジノ解禁、統合型リゾート(IR)推進法案が成立される日

ギャンブルのような人生を歩むなと、教えるのが大人ではなかったか。
実直であることが、人が安らかに健やかに生きる上でいかに大切であるかを、説くのが大人ではなかったか。
世の教師らは、きっと今頃頭を悩ませているのだと思う。
この国はカジノというギャンブルを通じて得たお金で財政を潤そうとしている。
それが「成長戦略」であると謳って。
オトナの代表が大真面目な顔をして話し合っていたのは、そんな話なのだ。
仮にあの議論の場に子どもらがいても、オトナらは同じようにものを言ったのだろうか。
あるいは教師の代わりに教壇に立ってカジノ解禁の意義を、生徒に向かって、平然と語ることができるのだろうか。
統合型リゾート(IR)を推進する法案だと言ったところで、柱となっているのは賭博場であるカジノの解禁だ。


普段、政治についてどうこう言うことはない。
幸せを感じるのは自分の心なのだから、重要なのは制度や規範などの外的要因ではなくて、心を整える自らの精神である。
精神によって人は幸せになる
それが人の幸せにおける根本であるから、政治によって個人に幸せがもたらされるなどとははじめから考えてもいない。
だから外的要因は、外的要因を定めていくプロである政治家に任せておけばよしと、そう思う以外に何もなかった。


それなのに政治について書いてしまったのは、ふと耳にした言葉に、本当に残念な思いを抱いたからだ。
カジノは成長戦略
しかもそこで交わされていた議論は、カジノが経済成長につながるのか、もしくはメリットとデメリットに終始して、ギャンブルとは何なのかという本質には触れられない。
成長とは何なのかもまったく問われない。
それらの本質を問わずして、なぜ「ギャンブル」によって「成長」するなどということが言えるのか。
ギャンブルに頼ることのない精神を築くことが成長でなくて、何なのか
賭博が問題視されるなかで、国の代表であるオトナが平然と賭博を推進することに、理解ができない。


人の金銭感覚を麻痺させ、煽り、あるいはつけ込み、お金を浪費させるギャンブルによって、何が「成長」するのか、やはり端的に訊いてみたい。
経済だと、はっきりと答えるものだろうか。
個々の人間のことよりも、国としての経済のほうが重要であると。
ギャンブルによってお金を落としていく人間を生み出すのが一番の成長戦略なのだと、はっきりと答えるだろうか。


カジノの創出を推進する人々は、その主張を、教師に代わって子どもらの前で胸を張って言ってみていただきたい。
純粋に前を向き目を開く子どもらに、お金を賭けることは良いことなんだと、ギャンブルを推進することが成長につながるのだと。
言うことができなければ偽者だが、言えてしまえば狂気である。
どちらにしても、本質を問う精神を有した人間のなせる業ではない。
カジノ解禁をめぐる答弁に、本質に触れようとする姿勢はない

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「ギャンブル依存者を生み出してしまったらどうするのか?」
「得たお金で対処すればいい」
お金を落とさせて、そのお金でケアをするということの転倒した回答に驚く。
手当てをすれば人を転ばせて怪我を負わせてもいい道理がどこにある
本質に目を向けない言葉の羅列に、虚しさしか覚えない。


禅語に「好事も無きに如かず」という言葉がある。
好事とは、一見、好ましいこと。
しかし好事ばかりに目がいくようであれば、そんな好事はないほうがいいという意味の禅語だ。
好事の裏で、必ず大切なものが失われているからである
そしてそのことに、目を奪われた当人は気が付かないことを警告した禅語でもある。
表面的な好事に依存してしまったら、取り返しのつかないものを失ってしまうかもしれない。
それは二度と取り戻せないものかもしれない。


人は成長するために生きている。
「成長戦略」というあの言葉のなかに使われている、「成長」である。
その真意を、もう一度自らの胸に問い直してはもらえないものか。
いや、本当は当人たちも誰もがカジノが誉められたものではないことなど知っているのだろう。
それであっても、鼻先に吊るされたニンジンが欲しくて、崖に向かう道を慎重に進もうとしているのだ。
崖から落ちないように気を付けながら、ニンジンさえ手に入ればいい。
しかしその道の先には崖しかないことが問題なのであって、ニンジンが問題なのではない
大切なのは、方向性である。


およそ議論は、よりよい答えを求めて行われる。
よい、とは、詰まるところ人の幸せを意味している。
ならばあの場所で話し合われていた問いの形をもっともシンプルにすれば、次のようになる。
ギャンブルは人を幸せに導くか?


YESと答えたオトナが多数であったことを、どうやってわが子に伝えたものか。
NOと答えた大人もいたという事実を添えなくては、到底伝えられない。