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大パリニッバーナ経の現代語訳 ~ブッダ最後の旅の言行録~ 第3章

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大パリニッバーナ経の現代語訳 ~ブッダ最後の旅の言行録~ 第3章

ブッダ最後の旅の言行録でもある『大パリニッバーナ経』の現代語訳(私訳)の3回目。
ブッダはこの旅の途中で亡くなるが、その前にどのような言葉を残したのか。
遺言をテーマとしたともいえる『大パリニッバーナ経』というお経のなかで、今回は第3章を読み進めていきたい。
このシリーズを未読のかたは下の記事(第1章)からどうぞ。
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第3章

第10節 死期の予感

ブッダは朝早くに起きると衣を整え、鉢を手に持ってヴェーサーリーの市街へ入っていった。托鉢を行うためである。
そしてしばらくのあいだ市街を歩いて托鉢を行い、それから戻ってきて食事をすませると、アーナンダに告げた。


「坐具(敷物)を用意してくれるか。昼はチャーパーラ樹のもとで坐禅をしたい」
ブッダはそう言うと立ち上がり、歩き始めた。
アーナンダは返事をしてブッダの坐具を携えると、ブッダのあとに続いた。


チャーパーラ樹のもとまでやってくると、アーナンダはブッダの坐具を敷き座席を作り、ブッダはそこに坐った。
アーナンダもブッダの傍に坐った。


「アーナンダよ。ヴェーサーリーは良いところだ。このチャーパーラ樹もすばらしい。
この世界にはすばらしい土地がたくさんある」
ブッダは続けてアーナンダに語りかけた。
「アーナンダよ。どのような人であっても、正しく瞑想し、家の基礎のように堅固に修行を重ねれば、みずからの寿命をまっとうすることができるだろう


ブッダは自らの死期が近いことを暗にほのめかした
しかしアーナンダがその意図に気付くことはなかった。
ブッダはこれまで訪れた地の名を挙げては、あそこはすばらしいところだったと振り返り、そしてまた自らの死期が近いことを予感させる言葉を漏らした。
アーナンダはここでも気付くことはなかった。
心が正しくはたらいていないかのようであった。


「アーナンダよ。私のことはいいから、好きな場所で坐禅をしなさい」
ブッダの言葉を受けてアーナンダは立ち上がり、少し歩いて1本の樹の根元に赴き、そこに坐った。


第11節 悪魔との対話

アーナンダが座を立ち離れると、ブッダの心には自らの余命を自覚させようとする悪魔のごとき思いが浮かんできた
「私はもう長くは生きられない。寂滅(死)の時は近い。
私は以前こう思った。弟子たちが教えを知らなかったり、説くことができなかったり、法に沿って生きることができていない間は、死ぬわけにはいかないと。
しかし今や弟子たちは立派に成長し修行を重ね、法に沿って生きている。
もしかしたらもう、私の命は尽きる時を迎えたのかもしれない


ブッダは遊行を重ね、多くの人々に法を説いてきた。
その清浄な行いが実を結び、教えは広まり、法は多くの人々に説き明かされた。
その誓願が果たされない間は死ぬわけにはいかないとも思っていたが、それも今や成就されたと考えてもいいのかもしれない。
もしかしたらもう、自分は入滅すべき時なのかもしれないとブッダは考えたのだった。


そしてブッダは心のなかで悪魔と対話をするかのように、1つの覚悟をした。
何も死に急ぐ必要はない。やがて時が来れば誰もが自然と寂滅に入るのだ。
おそらくはあと3ヶ月。余命3ヶ月の後、私は寂滅するだろう。


第12節 アーナンダの懇情

ブッダはチャーパーラ樹の下で意識を集中させた。
そして、命を長らえる縁があったとしても、それを断って入滅することを選んだ


するとそのとき、まるでブッダの意思に呼応するかのように地震が起こり、空には雷鳴が轟いた。
人々は急な異変に驚き、体を硬直させた。
ブッダは地震と雷鳴の意味を感じ取り、ふと、湧き起こる想いを口にした。
「人が生きるために必要な諸々の命の縁を私は手放した。
自らの心を深く見つめ、精神を統一させ、自分が成り立つもとを捨て去った


天変地異に驚いたアーナンダは、慌ててブッダのそばにかけよった。
「驚きました。なんという奇怪な現象でしょうか。
こんなにも大きな地震が起き、雷鳴が轟くとは。
一体何が原因で、これらの現象は起こるのでしょうか


「天変地異が起こるほどの原因といえば、8つある。
大きな風が吹きわたり水を動揺させるとき、大地が動揺する。
神通力をもった修行者が大地の想い修するとき、大地が動揺する。
悟りを目指す修行者が母胎に宿るとき、大地が震動する。
悟りを目指す修行者が生まれるとき、大地が震動する。
修行を完成させた者が最上の悟りを開くとき、大地が震動する。
修行を完成させた者が悟りの法を説くとき、大地が震動する。
修行を完成させた者が命の縁を捨て去るとき、大地が震動する。
そして、修行を完成させた者が亡くなるとき、大地が震動する」


ブッダは地震が起きる原因を挙げ、アーナンダに説いた。
そのなかには、修行を完成させた者が命の縁を手放したときに地震が起こるという、ブッダの覚悟の一文も含まれていた。


「アーナンダよ。私はかつて、いろいろな集いに出向いては人々に法を説いたことがあった。
そのときの様子を、今ありありと思い出している。
心の内で物質的なものと精神的なものについて考え、それらに打ち克って、真実を知り真実を見るという決意を抱きなさいと、そのようにして自分の心を把握する境地を説いたこともあった。
心の解脱について、物質的なことから精神的なことまで段階を設けて説いたこともあった」


ブッダはそれから、苦行をやめて坐禅によって悟りを開いたときのことを思い出した。
「私が苦行に見切りをつけ、ウルヴェーラー村の近くを流れているネーランジャラー河のほとりで悟りを開き、アジャパーラと名付けられた1本の樹の下で坐っていたとき、私は自分の心に悪魔のささやきが生じたのを覚えている


我が心の悪魔は私にこう言った。
亡くなりなさい。今こそ亡くなるときです』と。
そこで私は悪魔にこう答えた。
私の弟子たちが迷いと苦しみを断ち切って安楽の境涯に入り、その教えを人々に説くようになるまでは、私は死なない。
出家した弟子に限らず在家の信者も含め、また男女ともに、教えを理解しないうちは、私は死なない。
教えを広く説くまでは、私は死なない、と」


しかし、とブッダは話を続けた。
「今日またその悪魔が私に声をかけてきた。
悪魔は同じように私にささやくのだ。
『亡くなりなさい。今こそ亡くなるときです。
あなたは以前こう言ったではありませんか。弟子たちが一人前になるまでは死なないと。
今や弟子たちはもう立派になりました
あなたも教えを広く説いたではありませんか
今こそ亡くなるときです』と。


だから私は悪魔にこう答えた。
わかった。そう遠くないあいだに私は入滅することになるだろう。
これから3ヶ月経ってのちに、私は亡くなるだろう、と。
そして今この場で、命の縁を捨て去ったのだ」


ブッダの告白に驚いたアーナンダは、あわててブッダに懇情した。
「ブッダ。どうか寿命の限りこの世界に留まってください。人々の幸福のために、教えを説き続けてください」
しかしその願いをブッダは退けた。
「アーナンダよ。今になってそのようにすがるのはやめなさい。
そのような願いを欲してはいけない」
それでもアーナンダはブッダに生き続けるよう懇情し続けた。


ブッダはすがりつくアーナンダを諭した。
「アーナンダよ。そなたは、私が到達した悟りというものを信じているか」
「はい。もちろんです」
「それではなぜ今、私に生き続けるよう願い続け、私を困らせるのか」
「ブッダはおっしゃったではありませんか。どのような人であっても、正しく瞑想し、家の基礎のように堅固に修行を重ねれば、みずからの寿命をまっとうすることができるだろう、と」
「その言葉をそなたは信じているのか」
「はい」
「それならばなぜ、その時に言わなかったのだ。『命の限り生き続けるように』と。
もしそなたがそう言っていたら、私はそなたの願いを再三にわたって退けることはしなかっただろう。
しなかった、という縁がある以上、その報いは必ず受けなければならない


第13節 残された法

「アーナンダよ。私はこれまでに何度も説いてきてはこなかっただろうか。
どれだけ強く願おうとも、いつかは別れる時がくると
生まれ、そして滅していく道理であるところの存在が、いつまでも破壊されないということがどうして起こりえるだろうか。
そのような道理はこの世界に存在しない。
私の命も同じだ。命の縁はやがて尽きる


ブッダはアーナンダに変わらないものは何もない道理を伝え、断定するかのようにこう告げた。
「私は遠くないあいだに入滅する。3ヶ月の後に寂滅する
命を長らえたくてこの言葉を取り消すというようなことは、ありえない」
ブッダは自分の死が近いこと、それは自然の道理であり、覆しようのないことをアーナンダに伝えた。
そしてアーナンダに、林のなかにある講堂へ行こうと伝えた。


ブッダとアーナンダは講堂へ向かって歩いた。
そして到着すると、ブッダはアーナンダにヴェーサーリーの近辺で暮らしている修行僧を講堂に集めるように言った
アーナンダは返事をし、ブッダのもとを離れていった。


しばらく経って、アーナンダは修行僧たちを集め終わり、ブッダのもとへ戻ってきた。
「ブッダ。大勢の修行僧が集まっています。いつでもお話をはじめていただいてかまいません」
ブッダはアーナンダの言葉を受けて講堂に設けられた座席に腰を下ろし、話をはじめた。


「修行僧たちよ。私はこれより真実の法を説く。
そなたたちは真実に沿って生き、実践し、法を盛んに広めてほしい。
人が正しく生きられ、そうした生き方がずっと長いあいだ保たれることを願って、私は法を説く
それが多くの人々の利益と幸福となると信じているからである。


まず、悟りをえるためには次の4つの観想法を行じなさい。
身体は不浄であり、感受作用から苦が生まれ、心は無常なもので、あらゆる物には自性がなく無我であることに深く思い入りなさい。


次に、悟りをえるための修行として、次の4つの行いを意識しておきなさい。
生じてしまった悪を取り除こうとし、悪が生じないように勤め、善が生じるように生き、すでに生じた善が増すように努力していきなさい。


次に、瞑想に関する4つの修行に励みなさい。
深き瞑想に入ることを心に念じ、瞑想に入る努力をし、心を整えて深い瞑想に入り、真実について考えて瞑想を感得しなさい。


次に、自らの精神に関する次の5つの徳目を保ちなさい。
信念を持ち、努力を怠らず、意識を張り、心を整え、真実を見抜きなさい。


次に、悟りを得るのに役立つ7つの注意を覚えておきなさい。
人の言葉を鵜呑みにするのではなく、本当に正しいことを見極め、偽りの言葉があれば捨てること。
正しいことは、一心にこれを行うこと。
真実に沿って生きることの喜びを知ること。
心に執着などの荷物を背負わず、軽やかに生きること。
執着があれば捨てること。
心を集中させていること。
平穏な心を保つことに努めていること。


そして最後に、人が正しく生きるための8つの道(八正道)を行じていきなさい。
真理に目を向けること。
本当に正しいことは何かと考えること。
真理に基づいた言葉を用いること。
道理に沿った行いをすること。
丁寧に生活すること。
正しい道を歩む努力を怠らないこと。
正しさを心に思い続けていること。
心を整えて生きること。


これらの教えを保ち、実践して生きていきなさい。
そうすれば人は誰もが安らかに幸福に生きていくことができるだろう


そうしてブッダは一呼吸置き、改めて修行僧たちへこう告げた。
あらゆる存在は移り変わり過ぎ去っていく
だから虚しく時をすごさず、怠ることなく修行を完成させなさい
遠くないあいだに私は滅する。
3ヶ月の後に、私は寂滅する。


私の齢は熟した。
余命はもういくばくもない。
そなたたちを残して、私は世を去る。
私は自分自身を拠り所としてこの世を生きた。
そなたたちも、修行を怠ることなく、意識を保ち、真理に沿って生きなさい。
心を整え統一して、自分の心の主となって自分を守っていきなさい。
法を学び法に沿って生きる者は、苦悩の世界から解き放たれた人生を歩むことができるだろう


第3章 終わる


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