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【原坦山】 読後に、思わず「なるほどねぇ」と唸る禅僧の逸話 

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【禅僧の逸話】女性を背中におんぶして川を渡った原坦山

曹洞宗の学僧として知られた明治の禅僧に、原坦山(はらたんざん)がいる。その坦山がまだ若かった頃、修行仲間と二人で各地を行脚していた頃の話。


ある時、二人は橋のない小川にやってきた。普段であればじゃぶじゃぶと歩いて渡れそうな川幅の小川であるが、あいにく雨が降った後で水かさが増している。
渡れないことはないが、躊躇なしには渡りがたい水量である。さて、どうしたものか。
辺りを見渡すと、少し離れたところに小川の流れを困った顔で見つめている若い女性が立っていた。


見るとなしに女性を気にしていると、やがてその女性は着物の裾をたくし上げはじめた。どうやら小川を歩いて渡る決心をしたらしい。真っ白な美しい脛をあらわにして、小川に足をふみいれる。


すると、それを見た坦山が女性の傍に駆け寄った。
「ちょっと待ちなさい。私が背中におぶってあげますから」
そういって坦山は女性をおんぶした。
「しっかりと掴まっていてくださいよ」
女性を背負った坦山は小川へと足を踏み入れ、女性を向こう岸まで渡してあげることに無事成功。そして岸に上がると、礼を言う女性を残してさっさと先へ行ってしまった。


心中穏やかでないのは、これを見ていたもう一人の修行仲間。
修行中の禅僧たる者が女性を背負うとは何事か
との思いが頭から離れず、坦山の行為に対する怒りの念がいつまでもくすぶっていた。それは二人でまた歩き出してからしばらく経っても消えず、悶々とした心が続いた。
そしてやがて心の中に留めておくことが我慢ならなくなってしまい、坦山に向かって咎めるように口を開いた。
「さっきのは何だ。お前は修行中の身だろう。若い女性をおんぶするとは何事だ」


すると坦山は驚いた顔を見せて、すぐに笑い出した。
「俺はあの女をとっくに下ろしているのに、お前はまだ背負っているのか。あっはっは」


女性に執着していたのは、はたしてどちらだろうか。