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【禅語】 主人公 - 個性とは奇をてらうことではなく、自分らしく生きること -

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【禅語】主人公(しゅじんこう)

「ちょっと変わっている」
そんな人に対して、「個性的」という言葉が使われることがある。


個性的な髪型。
個性的な服装。
個性的な生き方。
などなど。


一握りの称賛と、一抹の拒否と、大多数の驚きで構成された、不思議なニュアンスの言葉だ。
個性的、という言葉は。


そんな個性的という言葉に関する、ちょっと面白い禅語がある。
それが「主人公」。


「主人公」といえば、現在では映画やドラマなどの主役を指す言葉として使われているが、本来の禅語の意味は少し違う。
禅語では主人公という言葉を、自分のなかにいる本当の自分というような意味で用いている。


実際に自分のなかにもう一人の自分がいるわけではないが、中国の瑞巌和尚という僧が自分に対して声をかけて、自分で答えるという変わったことをしていたものだから、自分のなかに主人公という本当の自分がいるかのようなニュアンスが付いてしまっている。


瑞巌がどんなふうに自分に対して声をかけていたのかというと……


「おーい、主人公(自分)よ。ちゃんと目を覚ましているか?」
と、自分で自分に問いかけ、
「大丈夫だ」
と、自答する。


「世間に流されるなよ」
自問し、
「大丈夫だ」
自答する。


そうやって、自分自身に声をかけては、自分で答えていたという
なんとも変わった僧侶が昔の中国には存在していたようで、そこからこの主人公という禅語は生まれたのだった。


現代で「個性的」というと、人と違っていたり、奇抜であったりといったことを連想するが、個性とは文字通り「個々の性質」のことである。
したがって、読書の好きな人が読書をすることは、じつに個性的な行為となる。
個々の性質に沿っているからである。


つまり、人と違うことが個性なのではなく、自分の心に沿うことが個性というわけだ。
このことはよく勘違いされやすいところなので注意が必要。


同じ行為をする人が何人いても一向にかまわない。
何人いようと、どれだけ似ていようと、人と違っていなくても、人はそれぞれ完全に個性的な存在なのである。
自分が自分として存在している時点ですでに、人は自分という個性をなくすことなど、はじめからできはしない


「自分探し」の弊害

いつからか「自分探し」という言葉がもてはやされるようになった。
今の自分は未完成で本当の自分ではなく、自分でも知らない本当の自分が存在するのだとし、それを求めることが一種のブームのようになっている節がある。


しかし禅の視点からこれを考えれば、
「自分を探しているという、お前は一体誰なんだ
と、こうなる。


自分を探しているというお前は、自分でなくて何なんだ。
探さなくても、自分は自分として今ここにちゃんと存在しているだろう
その自分に目を向けずに、どこを探して自分を見つけられるというのか。
はっきりと自分を見よ!


外にばかり目を向けていると、肝心の内側がずっと見えない。
だから瑞厳和尚は自分自身に対して、「大丈夫か?」と問い続けていたのだろう。
主人公という禅語は、本当に重要なのは外ではなく内であることを示す禅語ともいえる。


外を探したところで、いつまでたっても自分を見つけることはできない。
自分とは、自分を探そうとしている、この自分にほかならないから
本当の自分は、当たり前だが、この自分自身のことである。
一番肝心な自分を見失ってはいけない。
スタートラインにゴールラインが重なっていることを忘れてはいけない。


あれこれと画策しなくても、自分の心に沿って素直に生きれば、人は自ずからなるところの人になる
そして、それがそのまま自分の個性でもある。


真っ直ぐに伸びる竹は、奇をてらう必要もなく、真っ直ぐに伸びることが個性。
曲がりながら伸びる茨は、真っ直ぐに伸びようとしなくても、曲がりながら伸びることが個性。


珍しいことが個性的なのではない。
自分らしく生きていることが個性的なのであり、自分らしく生きている自分こそが「主人公」なのである。


無理に人と違うことをするのは、この大切な主人公を握りつぶして封印してしまうようなもの。
そんな生き方は少しも自分らしくない。
個性的でない。


奇抜なものを指して個性的と呼ぶ風潮があるが、それが本来有している個性に反することであったなら、本末転倒もいいところ。
だから人と同じとか、人と違うとか、そんなことは少しも気にすることじゃない。
本当に大切なのは、自分という、すでに存在する一つの個性
こちらのほう。


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