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【大愚良寛】 読後に、思わず「なるほどねぇ」と唸る禅僧の逸話 

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【禅僧の逸話】酒を買いにいった大愚良寛 - しがらみを離れた人 -

数多いる禅僧のなかでも、1、2を争うほどに人々に知られ、そして親しまれている人物がいる。大愚良寛(だいぐりょうかん)である。
良寛さん、と呼んだほうがわかりやすいかもしれない。


越後出雲崎の名家の長子として生まれた良寛は、俗名を栄蔵といった。
子どもと手毬をついて遊んでいたという悠然とした話が有名であるが、若かりしころからすでに相当な自由人であったという。
そんな性格だから当然のように家督を継ぐ気はなく、世間のしがらみを嫌い、家督は弟に譲って、18歳のときに出家をした。
そして、34歳で全国各地を渡り歩く行脚の途についたのだった。


良寛に関する逸話は多い。
そして面白いことに、それらの多くはまさに良寛ならではの人柄を伝えるものばかり。
良寛について何も知らなくても、その逸話をいくつか読めば、良寛の人となりが嫌でもわかるのだ。
この話を読んだ後にも、
「どんだけ自由人なんだ!」との感想を抱かずにはいられないだろう。


名月が夜空に浮かんだある夜、亀田鵬斎(ほうさい)という人物が良寛の暮らす庵を訪れた。
良寛は喜んで迎え入れると、2人で月を眺めながら話をはじめた。
「何とも美しい月じゃのう。ただ、こんなときに酒がないことが残念でならぬ。持ってくるべきじゃったわい」
鵬斎が何とも惜しい口調で呟いた。
するとそれを聞いた良寛は、
「酒なら麓にいけばすぐ手に入る。どれ、わしがひとっ走りして買ってこよう」
と、すぐに庵を出て駆けていった。


ところが、待っても待っても良寛は帰ってこない。
麓と庵を往復するのに十分すぎる時間が経っているのに、一向に姿を現さない庵の主を心配し、鵬斎も外に出た。
そして麓へ向かって山道を下りはじめた。


すると、庵からそれほど離れていないところに大きな松が生えていて、その根元に人が腰掛けていた。
ぼおっと放心したように月を仰いでいる。
鵬斎はその人物に良寛を見なかったかと訊ねようと思い、近づいていった。
そしてその人物の顔が判別できるくらいにまで近づき声をかけようとしたところで驚いた。
よくよく見れば、その人物が良寛だったのである


「和尚、こんなところにおられましたか」
「おお、鵬斎どの、あれをご覧なされ。まことによい月じゃなあ」
「ははは、月は大変に結構なものです。して、酒はどうなされましたかな?」
「酒? 酒とは……おお! そうじゃった。酒を買いに出たのじゃった。これは失敬、すっかり忘れてしまっておったわ
良寛は笑いながら立ち上がると、再び麓を目指して駆けていった。


無理に人と合わせて生きなくても、しがらみを離れて、自由に暮らすのもいい
良寛の逸話を読むと、いつもそのような念を抱く。
自然や虫を愛した清貧の僧、良寛。
人々に親しまれる理由が、何となくわかる気がする。