十八物と、災害用避難リュックの中身を比べた結果
前回、「無用の長物」という言葉が仏教に由来する仏教語であるという記事を書いた。
そのなかで、僧が所持することを認められていた18の品「十八物」を紹介したが、その十八物に「毛抜き」が入っていたことを覚えていらっしゃるだろうか?
18種という、まさに必要最低限の物品だけで構成される所有物のなかに、なんと「毛抜き」がランクインしているのである。
毛抜き……。
これは本当に十八物に入るだけの意味があったのだろうか?
すぐそばに毛抜きがあったので、手にとって妙に考えてしまった。
僧だから頭の毛はないし、眉毛を整えるはずもないから、もはや体に刺さった棘を抜く以外に使い道はないと思われるが、そんなにも棘が刺さって困っていたのだろうか。
それとも他になにか使い道があったのだろうか。
なにせ、18種のなかの1つに入り込むくらいである。
相応の理由があると思うのだが、謎だ……。
と、思っていたら、驚く情報を発見した。
前回の記事のなかで、「避難用リュックサックの中にだってもう少し入っているのではないか」と書いておきながら、自分の手元に実物がなかったので確かめることができず、やむを得ずネットで調べた。
すると、下記のサイトで避難用リュックサックの中身を18種厳選したリストが載っていた。
http://shinsai-taisaku.blush.jp/page018.html
試しにのぞいてみると、そのリストの中の1つに「救急袋」が挙げられていて、その詳細を記した添え書きに、なんと「毛抜き」が明記されていたのだ!
やはり毛抜きは重要なのか……!?。
棘とか、そういうことなのだろうか?
災害時・非常時の毛抜きの活用について、詳しい方がいたらぜひ教えていただきたい。
十八物の説明をする際に、毛抜きだけは私もよくわからないもので、このままでは落ち着かない。
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十八物と避難リュックの中身の比較
では実際に、十八物と避難リュック品物リストを見比べていきたい。
はじめに、おさらいになるが十八物を再確認しておこう。
十八物
- 楊枝(ようじ):木の枝を割いて作った刷毛のような歯ブラシ
- 澡豆(そうず):小豆などの屑で作った石鹸のような粉
- 三衣(さんえ):大衣と上衣と中衣。
- 瓶(びょう):水を入れておく器
- 鉢(はつ):お椀型の食器
- 坐具(ざぐ):坐禅や寝る際に使う敷物
- 錫杖(しゃくじょう):上端に金属製の輪っかがついた杖
- 香炉(こうろ):香を焚くための道具
- 漉水嚢(ろくすいのう):水を濾して飲み水にする袋
- 手巾(しゅきん):手ぬぐい
- 刀子(とうす):髪を剃ったり布を裁断したりするための小刀
- 火燧(かすい):火打ち石
- 鑷子(じょうす):毛抜き
- 縄床(じょうしょう):縄を編んで作った携行用の椅子
- 教本(きょうほん):お経が書かれた本
- 戒本(かいほん):僧が守るべき生活指針について書かれた本
- 仏像(ぶつぞう):仏の姿をした像
- 菩薩像(ぼさつぞう):菩薩の姿をした像
次に、避難用リュックのリストを挙げ、それに対応する十八物を記載したい。
なお、参考までにそれぞれの一言紹介も記載させていただいた。
災害時必要最低限の品物リスト
①非常袋:両手が空くリュックサック型が最適
→漉水嚢
②飲料水:1日1リットル。500mlペットボトル数本
→漉水嚢(必要な時に川の水を濾して飲む)
③非常食:カンパン、ビスケット、チョコレート等
→鉢(托鉢で得る)
④懐中電灯:予備の電池も忘れずに
→無し(そもそも暗くなったら就寝)
⑤ラジオ:イヤホン専用ではなく、スピーカー対応のものがよい
→無し(情報は歩いて直接人に訊く)
⑥貴重品:お札、小銭(公衆電話用10円玉)、保険証、身分証明書等
→無し(そもそも蓄財はしない)
⑦救急袋:マスク、消毒液、絆創膏、湿布、薬、包帯、毛抜き
→鑷子
⑧着替え:下着やTシャツ、小さくまとまるユニクロのダウンなど
→三衣
⑨筆記用具:油性マジック、メモ帳、ボールペンなど
→無し(暗記で対応)
⑩ハサミ、カッター:10徳ナイフもいいが、ハサミのほうが使いやすい
→刀子
⑪ライター:チャッカマンの形態のほうが使いやすい
→火燧
⑫タオル:怪我の手当や下着の代用などでよく使うため数枚用意
→手巾
⑬ポリ袋:水を入れるのにも使う
→瓶
⑭トイレットペーパー:ウェットティッシュも用意しておく
→無し(草陰でしゃがみ込めば問題なし。もしくは川で)
⑮ガムテープ:布テープがベスト
→無し(遊行生活にガムテープの必要性は感じない)
⑯軍手:綿100%と皮手袋(ガラス処理用)があると便利
→無し(靴すらなしの裸足生活に軍手は不要)
⑰雨合羽:ポリ袋で対処可能だが、あれば便利
→無し(雨が降ったら雨宿り)
⑱レジャーシート:避難先の場所確保などにも便利
→坐具
比較結果
以上が、避難用リュックの中身と、それに対応する十八物である。
用途で該当するものを挙げると、なんと10種も該当した。
しかも対応するものがない8種は、どれも出家者の暮らしには不要と思われる。
するとどうなるか。
十八物を所持していれば、人が生きる上で最低限必要なものは足りていたということになる。
しかも十八物にはほかにも、香炉・経典・仏像という宗教的要素を含むものから、歯ブラシ・洗剤・杖・簡易椅子という日用品まで含まれている。
ある意味、避難用リュック以上の内容とも考えられるのだ。
品数だけをみれば避難用リュックのほうが沢山入ってはいるが、目的を遂行するのに必要な物という視点から考えると、十八物のほうがむしろ多目的かもしれない。
十八物、侮り難し。
いい加減に選んだとは思っていないが、ちゃんと必要なものを網羅した18品であったことを改めて知って、今さらながらちょっと驚いてしまった……。