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4月8日は降誕会(花祭り) ~ブッダが生まれた日~

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4月8日は降誕会(花祭り) ~ブッダが生まれた日~

人は誕生日を祝いますよね。
じつは仏教でも毎年、開祖であるブッダ(お釈迦さま)の誕生日を祝っています。
それが4月8日の「降誕会(ごうたんえ)」。


一般的には「花祭り」と呼ばれる日ですが、この花祭りこそ、ブッダの誕生を祝うお祭りなのです。
あまり知られていない誕生日なので、ちょっと残念ですが……。



降誕会とは

「降誕」という言葉は、平たく言えば「誕生」のこと。
厳密に言えば、神仏・君主・聖人といった人物の誕生を意味する言葉になります。
最上級に恭しい誕生を意味する言葉とでも言えましょうか。
「降臨し誕生する」というようなニュアンスです。


そんな仰々しい言葉なんて使ってくれるなと、ブッダが聞いたら辞退されるかもしれませんが、ブッダの弟子である我々僧侶は恭しい呼称を用いています。


降誕会には他にも別名があって、前述の「花祭り」もそうですし、あとは「灌仏会」という呼び方も比較的よく耳にします。
灌仏とは仏さまが水浴びをするという意味ですが、これについては後述としましょう。


花祭り,降誕会

花祭りとは

なぜブッダの誕生日を花祭りと呼ぶのか。
それは、ブッダが生まれた場所に関係があります。


仏教発祥の地といえばインド。
だからブッダはインドで生まれたと思われがちですが、じつはそうではありません。
ブッダが生まれたのは現在でいうネパールのルンビニーという場所でした。


このルンビニーという場所はインドとネパールの国境付近にあるのですが、現在の位置関係でいえばネパールに入ります。
なのでブッダはネパール生まれということになります。


一応Googleマップで確認してみましょう。
下の地図の赤いピンが立っている場所がルンビニーになります。



ね? ネパールでしょう。
ぎりぎりインドではありません。


それで、このルンビニーという場所は、伝承によれば美しい花々が咲き誇る園であったといわれています。
ブッダは花に囲まれた地で生まれたのですね。
素敵なことです。


そのため、後世になってブッダの誕生を祝うようになったとき、「花」というのが1つのポイントになりました。
花祭りもそうですし、もう1つ、花御堂を飾るという風習も、ここからきています。


花祭り

花御堂と灌仏

仏教寺院では、4月8日に花御堂を飾り、そのなかにブッダが誕生したときの姿を表現した「誕生仏」をお祀りします。
花御堂のなかには桶が置かれ、そのなかにブッダの誕生仏がお祀りされているのです。


そしてその桶のなかには甘茶が入れられており、これを小さな柄杓ですくって誕生仏にかけるという習慣があります。
前述の灌仏会という名称は、この甘茶をかける習慣にちなんだ名称なのです。


灌仏,花御堂
誕生仏と灌仏

なぜ頭から甘茶をかけるのか。

甘茶をかけるという慣習にもちゃんと由来があります。
ブッダが生まれたとき、空に龍が現れて、甘く浄らかな水を注ぎ、それを産湯として使ったという伝承があるのです。
そのため、誕生仏に甘茶をかけると子どもが健康に育つという言い伝えも残っています。


ちなみにこの甘い雨のことを甘露と呼びます。
甘露煮とか、あの甘露の語源になった言葉です。


甘茶は漢方の材料として使用されることもあり、実際に飲むことができます
なので寺院で作った甘茶を参拝者に振る舞っているところも多くあります。
参拝者が空の水筒を持参して、甘茶を入れて持って帰るというところも。


うちでも以前はそうしていましたが、現在は衛生上の理由から自家製甘茶の配布は止めにして、ペットボトル入りの甘茶をお渡しするように変わりました。
時代の流れですから、しょうがないところがあります。
自然の甘味なのですがとても甘くて美味しいですよ、甘茶。
一度も飲んだことがないという方は、ぜひ一度飲んでみてほしいです。


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ペットボトル入りの甘茶

甘茶の不思議な効能

じつは甘茶は飲むだけでなく、字の上達や虫除けの効能があるとも伝えられています。
水の代わりに甘茶で墨を磨って書の練習をすると字が上手になるという言い伝えや、甘茶で磨った墨で虫除け札を書くと虫が寄ってこないというものです。
まあ、これは本当に言い伝えの類いです。


ただ、ある方は、たまたま虫除け札をもらわなかった年にムカデに刺されて痛い思いをしたから、やっぱり毎年虫除け札はほしいと言っていました。
そんな要望もありますので、実際の効能がどの程度かは未知数ですが、希望される方にはうちでも虫除け札をお渡ししています。
虫除け札は家の柱の下のほうに、上下逆さまにして貼るように伝えられています。


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虫除け札


⇧ じっさいにうちでお渡ししている虫除け札です。
甘茶で磨った墨で1枚1枚手書きしています。

白い象の伝承

花祭りでは、花御輿のほかに白い象が引かれることがあります。
これもブッダの伝承にちなんだものになります。


ブッダの母親は、ある日夢を見ました。
その夢は6つの牙を持った白い象が自分のお腹のなかに入っていくという不思議な夢で、その夢を見たあとに子を宿したことがわかったことから、白い象が受胎の象徴とされてきたのです。
つまり花祭りで白い象を引くのも、ブッダの出生に関係のある催し物ということなのです。



天上天下唯我独尊

不思議な伝承づくめのブッダの出生ですが、まだほかにもその手の話は残っています。
なかでも特に有名なのは、ブッダが生まれた直後に7歩歩き、天と地を左右それぞれの手で指さし、「天上天下唯我独尊」と言葉を発したというもの。


天上天下唯我独尊という言葉は、現代では「自分が一番偉い」というような意味で使われることの多い言葉ですが、もちろん本来の意味はそうではありません。
これは、「人間は誰もが比べることのできない尊い存在である」というような意味の言葉です。
これについては話が長くなるので、詳しく知りたい方は下の記事をどうぞ。
www.zen-essay.com

月日に差がある理由

基本的には4月8日に行われる降誕会ですが、地域によっては月遅れの5月8日に行われるところもあります


その理由として、旧暦と新暦の関係とする説もありますが、月遅れにしている地域は寒い地域が多いことを考えますと、単純に「花がまだ咲いていないから」というのが一番の理由なのではないかと思えます。
雪の深い地域では、行事が遅めの日程で設定されていることもあり、それと同じような理屈なのではないかと。
まあ、寒くない地域でも月遅れでやっているところはありますので、季候との関係ですべて説明がつくわけではありませんが。

まとめ

  • 4月8日はブッダの誕生日で、それを祝うお祭りが「花祭り」。
  • お寺では降誕会が営まれ、花御堂を飾り、生まれたばかりのブッダの姿をした誕生仏をお祀りして、甘茶をかけてお祝いをする。
  • 一連の風習は、ブッダの誕生に関する多くの伝承がもとになっている。


クリスマスみたいに、4月8日はケーキを買って、家族みんなでお祝いをする日にするというのはいかがでしょうか?
子どもを中心に、大喜び間違いなしですよ。