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坐禅(座禅)で使う坐蒲(座蒲)の豆知識 ~選ぶポイントや手入れの仕方など~

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坐禅で使う「坐蒲」の豆知識

坐禅をする際には、尻の下に丸形のクッションのようなものを置く。
これを坐蒲(ざふ)という。
クッションと言ってしまうとじつは怒られたりするものだから、坊さんの世界では「丸形の蒲団」と言う慣わしになっていたりもするが、蒲団じゃあ、ちょっとねぇ……。
坐蒲を知らない人がこの言葉からイメージするものは、まさに「丸い形をした蒲団」になってしまうのではないかと思えてしかたがないので、やはりここはお叱りを承知でクッションとしてしまおう。


坐禅は体一つで行うことのできるものであるが、唯一必要な道具を挙げるとすれば、この坐蒲になる。
仮に坐蒲がなくても坐禅が組めないことはないのだが、あったほうが断然坐禅がしやすい。
尻の下に何もないと、腰骨を立たせにくく、背中が伸びにくい。
坐禅において安定した姿勢をキープすることは極めて重要で、姿勢が崩れると坐禅の質が下がる
どうも集中できなくなる。
道元禅師も坐禅をする際には坐蒲を用いるようにと述べているが、確かに坐禅に坐蒲は欠かせない。


地味に重要な坐蒲ではあるが、普段の生活ではなかなか目にする機会もなく、坐禅をしてみたいと思っていざこれを買おうと思っても、どう選んでいいかわからないという方も多いようだ。
「よくわからないからオススメを教えて」
と頼まれたこともあった。
オススメかぁ……。
様々な坐蒲で試し坐りをしたことがあるわけでもなく、坐蒲マイスター的な資格も有してはいないが、それでも経験上「自分ならこれを選ぶ」というようなポイントは一応存在するので、その辺りの話を少々。

坐蒲選びのポイントは材質

そもそも坐蒲とは、パンヤと呼ばれる植物性の綿(わた)を布で覆うようにして作られている。
どこで売っている坐蒲であっても似たり寄ったりで大きな違いはないように思うが、パンヤを覆っている布の材質だけはちょっと注意したほうがいい
もっともよく目にする材質は綿(めん)で、坐禅会などを開いていて多くの坐蒲を保有している寺院などでは、ほとんどがこの綿素材の坐蒲であるように思う。
私も永平寺で修行をしていた時、最初はこの綿素材の坐蒲を使っていた。
もっとも安く、スタンダードな感じがしたからである。


ただ、坐ってみてはじめてわかったのだが、この綿素材の坐蒲には大きな問題点があった。
尻が滑りやすいのである
屋根の上に積もった雪が、少しずつ下がってやがて地面に落下するような感じに似ていて、坐禅をしていても自分の尻が少しずつ前にズレていっているのがわかるのだ。
……ズズズ……ズズ……ズズズズ。
放っておけばいずれ畳にドスンッとなることは避けられず、もうこれ以上は落下の危険性があるという限界に近づいたあたりで、もぞもぞと坐り直す。
これでは坐禅に集中できるはずもなく、尻が滑らない方法が知りたくてしょうがなかった。
で、人に訊いたところ、それは坐り方の問題ではなく、坐蒲の材質の問題だという。
そこで別の素材の坐蒲に変えたところ、効果てきめん。
落下の恐怖から解放され、ようやっと坐禅に集中できるようになった次第である。


その別の素材というのが、ビロードである。
ビロード素材の坐蒲を用いるようになってから、格段に尻が滑りにくくなり、坐禅に集中できるようになった
なので、これから坐蒲を買おうとしている方は、断然ビロード素材の坐蒲をオススメする。
金額は綿よりも2~4割ほど高い傾向にあるが、坐禅に集中できなければ坐蒲の意味をなさないので、多少奮発してでもビロード素材を選んだほうがいいと思う。
坐蒲選びの最大のポイントは、このビロード素材を選ぶことではないかと、自分では思っている。
最近は綿とビロード以外の布材もあるようだが、とにかく滑りにくいものを選ぶことが第一。

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坐蒲の大きさ

あと迷うことといったら、坐蒲の大きさくらいだろうか。
だいたい直径30cm前後の坐蒲が主流であり、ほとんどの方はこのサイズで問題ないと思われる。
小学生であってもこの大きさでなんとか坐れているので、大人であればまったく問題ないのではないか。
20cmとか、極端に小さな坐蒲を見かけることもあるが、少なくとも大人には向かないように思う。
逆に40cm近い巨大な坐蒲も存在するが、こちらも特に大柄な方以外は必要性がないと思う。


そもそも坐蒲は中心に坐るのではなくて、端のほうに坐るのが正しい
円周付近というか、端のほうに腰を下ろして、必ず両膝が畳に付くように坐らないと、坐禅の姿が安定しないのである
だから大きさはあまり重要ではない。
結局坐るのは坐蒲の真ん中ではないからだ。
坐禅会などで、
「坐蒲を楔(くさび)のように尻と畳の間に差し込むようなイメージ」
と説明されることがあるが、この言葉の意味するところというのも、つまりは端のほうに坐りなさいということ。
端に坐って、両膝でしっかりと畳を押さえて、尻と両膝の三角形の3点で坐ると、坐禅はとても安定するのである。


ただ、綿素材の坐蒲でこのイメージで坐ってみると、瞬時に畳の上に尻が落下する恐れがある。
なので端に坐るのが理想的な形ではあるけれども、あくまでも滑らないことが前提だと言える。
滑らなければ、この形は本当に安定する
中心に坐るのではなく、端のほうに坐るだけで背筋がシャンとする。
坐蒲の中心に坐って膝が畳から浮いてしまっている方は、端のほうに坐るように心掛けたほうがいい。

坐蒲の購入方法

今時はネットで何でも買えてしまうが、ご多分に漏れず、坐蒲も買えてしまう。
ビロード素材という点さえ間違わなければ、おそらくどこで売っている坐蒲でも坐禅をする上では問題ない機能を有していると思う。


ちなみに私は、永平寺の雲水の御用達的存在となっている、福井の「西浦法衣店」さんで坐蒲を買った。
西浦法衣店さんはときどき永平寺にやって来て、着物や仏具などで困っている雲水の注文を受けてくれる大変ありがたい存在なのだ。
私も当時はなにかとお世話になった。
ビロード素材の坐蒲を届けてくれたのも西浦さんである。
おかげで落下の心配がなった。
本当に助かった。


西浦法衣店さんにはホームページがないようなので、一応連絡先等を記しておこうかと思う。
もし購入先に迷ったら、永平寺雲水御用達の西浦さんから取り寄せれば間違いないと言えるかもしれない。

 株式会社西浦法衣店
 TEL 0776-22-6374
 坐蒲(ビロード)
 大(直径34cm)6000円
 中(直径28cm)5000円
私は身長170cmだが、大サイズでまったく問題なかった。
ちなみに直径というのは、坐蒲の上下にある円形の布の直径であって、坐蒲自体の直径ではない。

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坐蒲の中身「パンヤ」

坐蒲の中にはパンヤが詰め込まれている。
パンヤというのはカポックという植物の実に詰まっている天然素材の綿(わた)のことで、枕やクッションの中身としても使用されている。
一般的なクッションでよく使用されるポリエステル綿と比べると固くてへたりにくく、耐久性に優れているのが特徴で、体重をかけてもへたらないことが重要となる坐蒲にとっては好都合の素材となっている。
このパンヤが坐蒲の中にぎゅうぎゅうに詰め込んであり、大抵はちょうどいい量に調節されている。

坐蒲の中に入っているパンヤ
↑ 坐蒲から取り出したパンヤ。真っ白ではなく色が付いていて、触ると綿あめのような感じ。


坐蒲のパンヤを自分で増やしたり減らしたりということはほとんどしないが、何十年と使っているとさすがにパンヤがへたることもあるという。
そんなときは新しいパンヤを手芸店などで買って詰め直せばいいのだが、どうやってパンヤを坐蒲の中から出し入れするかご存じだろうか。
坐蒲には一見切れ目がなく、中身が出せないように密封されているように見えるが、大抵の坐蒲には切れ目が隠されている(わかりやすく切れ目にチャックを付けている坐蒲もある)。
坐蒲の周囲には布の折れ目のような襞(ひだ)がいくつもあるが、このうちの1つがじつは切れ目になっていて、ここからパンヤを出し入れすることができるのだ。
切れ目がなければパンヤを詰め込むことができないので、当然といえば当然なのだが……。

坐蒲の切れ目
↑ 坐蒲の切れ目。
 

もし、新しく買った坐蒲が固すぎて坐りにくいというようなことがあれば、ここから中のパンヤを少し減らしてみるといいかもしれない。
もちろん、抜き取ったパンヤは捨てずにとっておいて、もうちょっと固さが欲しくなったらまた入れればいい。
長期間使用してへたってきても、ポリエステル綿を入れるのだけはやめたほうが賢明である。
あれは弱すぎて坐蒲には向かない。
それともう1つ注意点があって、パンヤというのは繊維が細かいからなのか理由はよくわからないが、とにかく凄まじく埃が舞う
なので鼻炎やアレルギーでお困りの方はマスク着用で挑むよう、注意喚起を添えておきたい。

坐蒲の手入れ

基本的に手入れと呼ぶほどのことは何もしないが、たまに日に干すと弾力性が少々復活するという。
パンヤの水分が蒸発するかららしいが、私はほとんど干したことはない。
それとは別に、坐禅をしたあとに毎回坐蒲の形を整える作業というのがあって、これは必ずやったほうがいい
坐ったままだと坐蒲がぺたんこになっており、次に坐る際に坐りにくい。
また、見た目にも使いっぱなしのように見えてよろしくない。


坐蒲の整え方であるが、ぺたんこになった坐蒲を手にとって、側面を畳に当てて、反対側となる天井側の側面(要するに上)から掌で押すというだけの簡単な作業である。
本来は親指で押すのだと永平寺では教わったが、パンヤはけっこう固いので、女性や子どもには痛いと思う。
押しながら少しずつ坐蒲を回転させて、さらに押し続けて、坐蒲をどんどん膨らませていく。
すると見事に膨らんだ坐蒲が出来上がり、整え完了。
この坐蒲を整えるという作業を終えるまでが坐禅の作法となるので、坐禅をしたら必ず坐蒲を整えることを忘れないように
言葉での説明ではピンとこないかもしれないので、下の動画で実際の坐蒲の整え方をご覧いただきたい。


ちなみに、この坐蒲を整える行為には名前がないため、「坐蒲を揉む」とか「坐蒲をポンポンにする」などと言われている。
ポンポンにする前と後では、下の画像くらいの違いがある。

坐蒲を整える前
↑ Before

坐蒲を整えた後
↑ After


ポンポンにした坐蒲に坐ると、干したての蒲団に寝転ぶような、洗い立ての服に袖を通すような、妙に新鮮な心地よさがある
坐蒲に坐って坐禅をする醍醐味の1つと言えるかもしれない。……大袈裟か?
でもまあ一度は体験していただきたいので、未体験の方は是非やってみていただきたい。