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写経をはじめるなら鉛筆写経が絶対オススメ【手本ダウンロード可】

写経をはじめるなら鉛筆写経が絶対オススメ

今、写経が密かなブームとなっている。
本屋を訪れれば写経に関する本をいくつも見つけることができるし、ネットから手本をダウンロードすることも容易い。
文房具店などにはたいてい写経の専用用紙も売られている。なかには筆ペン付き、参考書付きのものもある。差し詰め「写経スターターセット」といったところか。


一昔前なら、写経はお寺などが開催する写経会などでのみするもの、という風潮が強かったが、今はいつでも誰でもどこでも写経をすることができる
それこそ、自宅の机の上でも。
写経は随分と身近な存在になった。


そんな写経であるが、依然として敷居が高いものであることもまた事実。
一般的な広がりをみせ、手軽に取り組めるようになったものの、まだその敷居を高くしているものが存在するのである。
それがだ。


「写経に興味がある」
「写経のセットが売ってたから買ってみたい」
こう思っても、「筆」の存在が写経へと伸びる手を引っ込めさせてしまうことが、実際によくあると聞く。
「筆で書くのは難しそう」
「筆は苦手だから」
と、ためらう気持ちがふくらんでしまうという。
現代では筆はもはや一般的な筆記用具ではない。技術と習練を必要とし、特殊技能によってはじめて扱うことのできる筆記用具である。
この筆の存在が、写経の魅力である一方、写経をためらう最大の要因となってしまってもいる


写経は文字の上手下手を問うものではないから、筆で書いた字がきれいでなくても一向にかまわない。無論そこは問題ではない。
しかし現実として、書き慣れていない筆で書くことで不要な疲労感を覚えてしまうことは多い。
筆で書くということに頭が一杯になってしまい、写経に集中できないということもある。
それに準備も大変だ。筆、硯、墨、下敷きなどを用意し、使用後は筆や硯の手入れをしなければならない。
手間も含めて筆に魅力を感じられればいいが、なかなかそんな方ばかりではない。


鉛筆写経とは何か

写経が一般的な広がりをみせても、はじめる前から敬遠されていては魅力が伝わらない。
そこで私がオススメするのが、鉛筆写経である。
私はこれまで実際に筆、筆ペン、ボールペン、鉛筆と、様々な筆記用具で写経をしてみたが、一番リラックスして書くことができ、かつ書きやすく、写経に集中できる筆記用具は鉛筆であった。それもダントツで鉛筆。
ボールペンも書きやすいと思われるかもしれないが、対象が写経であるなら鉛筆のほうが圧倒的に書きやすい。
鉛筆の適度な柔らかさと太さが、非常に写経に合うのである。


今の時代、鉛筆なんて何年も使っていないという方は大勢いらっしゃることと思う。
スマホやパソコンが文字を書く主体となってしまい、手書き自体がすでに遠のいたものとなってしまっている感さえある。
そんな時代だからこそ、久しぶりに鉛筆を手に取ってみていただきたい。
「えっ? 鉛筆ってこんなに書きやすかったっけ?」
と、きっと鉛筆の優れた筆記能力を知ることができる。
それをぜひとも写経と合わせて体験していただきたいと思っている。


さらに鉛筆写経でオススメなのが、なぞり書き。
手本を見ながら罫線のみの紙に書くのは初学者では難しく、ちょうどよく字が1行に収まらなかったり、逆に余白が余ってしまったりといった事態によく陥る。
だから薄い手本をプリントアウトして、それをなぞるようにして書くのが、初学者にはもっとも適している。あるいは手本を下に敷き、上に白い紙を置いてなぞるのでもいい。
このブログでも『般若心経』と『修証義』のなぞり書き用の手本をダウンロードできるようになっているので、ぜひ一度試していただきたい。
ちなみに、鉛筆はBか2Bを使用すると濃さや硬さが調度いい。
鉛筆写経般若心経


写経の心得

写経とはその言葉どおり、「お経を写す」ことである。
お経とはブッダや歴代の仏教の祖師方の教えが書かれたものであり、たとえば『般若心経』であれば、「空(くう)」というものの考え方が説かれている。
写経はその教えを写し学ぶことであり、教えの実践でもある。


そのため写経は軽んじてはいけないものとされ、「一字三拝」という言葉に代表されるように、一字書くごとに三回お拝をするほど尊いものだという考えが古くから存在する。


そのように敬う気持ちを持つことも確かに大切なことではあるだろうが、しかし形式を厳格に定めすぎるあまり写経から人を遠ざける結果となってしまっては本末転倒。
仏の教えとは、人に伝えなければ意味をなさないからだ。
なので、本来であれば筆で書くことが正式ではあるけれども、私はあえて入門者の方々には鉛筆写経をオススメする。
その後、より本格的な写経へと興味が湧いてきたら筆に移行すればいいのであって、最初から筆でなければいけないとは考えていない


ブッダは教えを説くとき、相手によって説き方を変えた。人は一人ひとり理解も思想も異なるからである。だからそれぞれに合った方法で教えを説いた。
写経だってそうあるべきだろう。
一律に規定するのではなく、多様な入口があっていい。どの入口から入っても、その先の道は結局1本にまとまっているのだから。

写経のはじめ方

実際の写経の仕方については、次のようになる。

  1. 机の上に用具を準備する。正座でも、椅子でも、どちら用の机でもかまわない。
  2. 姿勢を正して座り、深呼吸をして身と心を落ち着かせる。
  3. 合掌をしてから、鉛筆や筆をとる。(お経を唱えてからはじめる場合もある)
  4. 前屈みにならないよう、肩や手に力が入りすぎないよう、良い姿勢に留意して表題から書きはじめる。
  5. 字は丁寧に書く。急ぐ必要はないので、心を込めて書く。
  6. 字を間違えた場合、正式には誤字の右横に点(、)を打ち、同じ行の上下の余白どちらかに正しい字を書く。脱字のときは、字が脱けた箇所(前後の文字と文字の間)に点を打ち、行の末尾にその文字を書く。ただし、鉛筆写経であれば消しゴムで消してしまってかまわない。
  7. 日付は一文字分下げて書き始める。
  8. 願文があれば日付の次に記す。一番上に「為」と書き、その下に願文を書く。○○家先祖代々霊位、家内安全、無病息災など。本来は写経自体が目的であるので、必ずしも書く必要はない。ただし、このブログでダウンロードした手本に願文の行はないのでご了承いただきたい。
  9. 最後に氏名を書き、その下に「謹写」と書く。
  10. はじめと同じように合掌をし、写経を終える。
  11. 書き終えたお経は、箱に入れるなどして丁寧に扱う。菩提寺等へ奉納することもできるが、奉納料がかかることもある。


手本をダウンロード

下のリンクをクリックすると手本をダウンロードすることができる。
現在は『般若心経』と『修証義』第一章 総序のみであるが、余力があれば今後増やしていきたい。
それぞれ、墨色の手本と、なぞり書き用の薄墨の2種があるので、お好きなほうをダウンロードしていただきたい。
鉛筆写経であればA4コピー用紙にプリントアウトすれば問題ないが、筆や筆ペンで写経をする場合はA4では小さい。
なので、筆文字で書く場合はA3に拡大印刷すると書きやすくなるので、A3がオススメ。

般若心経

写経といえば般若心経というくらい、もっともポピュラーな手本
手頃な文字数であることからも人気がある。

※ダウンロードする場合は、下のいずれかをクリック。その後、右クリックで「名前を付けて保存」もしくはそのまま「印刷」を選んでください。

↓墨色手本↓
般若心経 墨色手本 ダウンロード

↓薄墨なぞり書き用↓
般若心経 なぞり書き ダウンロード

※般若心経に書かれている言葉の意味を知りたい場合は、下のリンクで現代語訳を読むことができます。
www.zen-essay.com


修証義 第一章総序

永平寺の開山である道元禅師の一大著書『正法源蔵』のダイジェスト版ともいえるお経
和文であることから平仮名の交じった写経文となっている。
総序は、修証義の総体的な序文というような位置付けとなっており、仏法の基本的な概念についての章。

↓墨色手本↓
修証義 第一章総序 墨色手本 ダウンロード

↓薄墨なぞり書き用↓
修証義 第一章総序 なぞり書き ダウンロード

※修証義 第一章総序に書かれている言葉の意味を知りたい場合は、下のリンクで現代語訳を読むことができます。
www.zen-essay.com


写経の効果

写経は経文を写すことが目的、つまり写経自体が目的であって、その他に何らかの効果を目的として写経に取り組むのは本来の意味での写経ではない。
ただ結果的に、写経をしていると得られる副産物という意味での効果は、やはりある。
たとえば次のようなものだ。

  • 心が落ち着く
  • 集中力が増す
  • 字が上手になる
  • 脳が活性化する

「心が落ち着く」と、「集中力が増す」は似たようなものかもしれない。
一心に写経に取り組んでいると、集中力が増して外界を意識することがなくなり頭のなかが空っぽになる。
この「何も考えない」状態は、なかなか意図的には作り出すことができない。
黙々と書き続け、終わったときには何かスッキリとした心地になるため、坐禅と似たようなところがある
人によるかもしれないが、坐禅よりも写経のほうが集中できるという人は少なくないのではないかと、実感として思う。


「字が上手になる」というのは、あまりにも安直な効果と思われるかもしれないが、これも確かにある。
というのも、写経は大抵の場合、手本を下敷きにしてなぞり書きをする。
この「手本をなぞる」というのは文字の上達の早道で、上手な字を体が覚えるようになるのだ
手本を見て書く、では文字のバランスをそのまま書くことはできない。
なぞることで自分の字から離れ、整った字を書くことができるようになる。


「脳が活性化する」。これは日本の脳機能研究の第一人者として知られる東北大学の川島隆太教授が学研との共同研究によって、写経は脳を活性化させる効果が高いことを判明させている。
川島教授らのグループは、平成15年から翌年にかけて、仙台市内の高齢者延べ千人を対象に、オセロゲームやくるみ握り、はり絵、あやとりなど、高齢者の脳を活性化させるのに役立つとされる百六十種類を実験した。
実験の骨子は以下のようなものである。

  • 大脳の血流量の変化を二十四点で計測する機械「光トポグラフィ」を頭に装着。
  • 作業中に、人間らしい行動の抑制やコミュニケーション、学習をつかさどる「前頭葉」の左右と、空間認識などをつかさどる「前頂葉」の左右の変化を調査。
  • 作業前の平穏時を基準とし、脳が最高に活性化していることを示す数値であるプラス3から、脳がリラックスした状態を示すマイナス3までの11段階で判断。
  • その結果、写経で、前頭葉、前頂葉の左右、いずれも最高のプラス3を記録
  • その後、百人一首を書写する実験を行い、音読しながら書き写す作業の効果を確かめ、前頭葉が左右ともプラス2を示した。
  • 一方、脳を活性化しそうに見えるオセロゲームは、前頂葉に変化がなく、前頭葉にマイナス3の値が出て、リラックスグッズであることが判明。


脳の活性化が高いほど認知症の治療や予防に効果があると考えられており、写経は認知症の改善策として有益であることが証明されたわけである。
ただしこのような効果を求めて写経を行うのは少々邪道であるため、これらを目的にするのは本来的な写経ではないことを一言付け加えさせていただきたい。
写経をする際には、あくまでも「写経すること」それ自体を目的にして、写経に取り組んでみてはいかがだろうか。