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お香・香木の種類と香り - 白檀・沈香・伽羅 -

仏教と「お香」


仏教ではよくお香が用いられます。
香を供えることはもっとも尊い供養である」という考え方が仏教にはあるため、葬儀や法事などの仏事では必ずといっていいほど焼香が行われるようになっているのです。


そうした焼香の際に使用されているあの細かく刻まれた抹香ですが、あれは一体何なのか。
木を砕いたものだろうというところまではおそらく誰でも想像がつくでしょうが(木以外もありますが)、それ以上細かな話になると詳しくは知らないという方も多いのではないでしょうか。


そこで、お香の種類について簡単にご説明したいと思います。


お香・香木の種類


お香の種類はいくつもありますが、もっともメインとなるのは香木です。
香木とは、材そのものに芳香を有する木のこと。


香りを放つ木なんていくらでもあり、広義ではそれらはすべて香木となるのかもしれませんが、通常、香木といえば次の3種を指します。

  1. 白檀(びゃくだん)
  2. 沈香(ぢんこう)
  3. 伽羅(きゃら)


では次に、それらの特徴をみていきましょう。

① 白檀


白檀は、ビャクダン科の樹木。インドやインドネシアで多く産出されます。
白檀は半寄生の樹木であり、種から発芽して若木のうちは自力で成長するのですが、やがて傍に生えている他の木に寄生し、その木の根などから養分をもらって育つようになります。


幹の中心部分(芯)がもっとも香りが強いため、芯材を削り出して使用されます。
何もしなくても爽やかでほのかに甘い香りがするため、仏像などの彫刻、扇子、数珠、薬用、防虫などに使用されることが多いです。
もちろん焼香にも用いられます。


洋の東西を問わずに親しまれてきた香木です。

② 沈香


沈香はジンチョウゲ科の樹木。ベトナム、インドネシア、インドなどで産出されます。


原木はとても軽いのですが、樹脂が蓄積されることで重くなり水に沈むほどになります。
そこから「水に沈む香りのする木」という意味で「沈水香木」と呼ばれ、それを縮めて沈香といいます。


この沈香という香木が特殊なのは、木自体には香りがほとんどないこと。


じつは沈香とは、木質部に様々な外的な要因、たとえば傷が付いたり虫に喰われたりすることによって樹脂が分泌され、その樹脂が凝固した部分を指すのです。
香りを発するのは、この樹脂が蓄積された部分に限られます。


しかも、樹脂が蓄積された部分も、そのままでは芳香を発することはありません。
樹脂とはつまり脂であるため、熱を加えることではじめて香りを放つのです。


しかしそれでは「材そのものに芳香を有する木」という定義に合わないのではないかと疑問が生じるかもしれませんが、まあ、香りが良いということで昔から香木として珍重されてきました。
常温では本来の香りを発しないため、白檀のような用い方はせず、もっぱら焼香用として使用します。


たまに沈香で作られた数珠などを目にすることがありますが、熱を加えない以上は本来の香りを発しないため、あれはまったく宝の持ち腐れなのではないかとつい思ってしまいます。

③ 伽羅


伽羅は、沈香のなかの最上の品を指します。なので、基本的には沈香と同じ木であるといえます。
では沈香と何が違うのかというと、その格別な芳香。
香気や油質の違いによって驚くほどの香りを放つのです。


人為的に生産することが不可能であるため、現在では産出量がとても少なく、一層貴重となっています。


伽羅は、古来より金と同等の価値とされてきました。
現在では1gで数万円という目の玉が飛び出るような価格となっており、沈香の10倍以上の値がついています。
金の値段が1gでせいぜい数千円であることを考慮すると、もはや金と同等などではなく、金をはるかに凌ぐ値がついていると言えます。

伽羅の香り


それほどまでに値の張る伽羅の香りとはいかなるものなのか
これには多くの方が大変興味を持つのではないかと推察されます。


しかし不思議なことに、伽羅の具体的な香りについてはあまり言葉で表現されたものがありません。
「幽玄」とか「深遠」とか「重層的」といういかにも抽象的な言葉でぼやかされることが多く、あとは漠然と「甘い」とされる場合がほとんど。


香りというものが言語化しにくいのは十分承知していますが、それでももう少し具体的な記述はないものでしょうか。


……と、そんなことを思っていた矢先、偶然にも伽羅の香りを嗅ぐ機会を得ました
もちろん買ったわけではありません。香木の専門店の方と会った際に、伽羅の香りを試しに嗅がせいただけたのです。


スーパーでよくウインナーなどの一口試食をやっていますが、あれの香木バージョンみたいなものです。
試香、という言葉は存在しないかもしれないが、強いていうなら試香です。


1cm角ほどの四角い塊の伽羅を、専用の機械の上にのせ、熱であぶる。
すると途端に、ゆらりゆらりと香煙がのぼる。
その香煙を手で自分の鼻に引き寄せるようにして嗅ぐ。
すると……


おお……お……おおっ!?
以下、例えとしては叱られそうですが、一例として(あくまでも個人的な感想として)伽羅の香りを言語化してみたいと思います。


まず、肉を焼くような濃厚な香りが鼻の入口に届く。(叱られそうとはこの例え)
脂に香りがあるというのは非常に納得で、たしかに脂に熱を加えたような香りがするのです(少なくとも私にはそう感じられた)。


そしてその後に、いわゆる抹香を焚いた時の芳香が鼻腔に流れてくる。
濃厚な香りの次にやってきたためか、気品というか気高さというか、清廉な香りです。


さらにその後に、若干甘い感じのする香りが残る
春の野原を歩いていて、ふと花の香りがそよぐといった程度のかすかなものではありますが、確かに甘い香りが感じられました。


私の場合、その3段階で伽羅の香りを感じました
なるほど。これが、あの名高い伽羅の香りかと。


ちなみに、「おおっ!?」というのは、不覚にも「肉か!?」と一瞬思ってしまった時の驚きを表しています。
本当に驚きました。木から油のような濃厚な香りが漂ってきたのですから。
少なくとも、伽羅は爽やかな香りではありませんでした。


沈香の沈み方がゆらゆらと沈む感じだとすれば、伽羅の沈み方は鉄が一直線に沈み込んでいくかのごとくに感じられるほど濃厚なものです。


焼香の最適な温度


香を焚く際に注意していただきたいことが1つあります。
それは、通常の炭の上に伽羅なり沈香なりを直接置くと、熱すぎて本来のよい香りにならないということ。


焼香用の炭に火をつけると、だいたい300℃ほどになると言われています。
しかしこの温度は伽羅を焚く適正温度としては熱すぎるとのこと。


ではどうするのか。炭の上に薄いガラスを一枚敷き、炭と香のあいだに隔たりを作ることでわざと温度を下げて、適正温度で焚いたほうが香りがよくなります。
熱すぎると、極端にいえば焦げたような香りとなってしまうので注意が必要です。


ガラスをはさむことで温度を200℃以下に下げることができ、弱火でジワジワと炙ることで本来の香りが立ちこめるというわけです。


もし伽羅を手に入れたときは、せっかくなので温度にも気を付けてその香りを楽しんでいただければと思います。
どんなに良い食材を手に入れても調理の腕次第で味が大きく変わるように、たとえ伽羅を手に入れても適切な火加減を保つことができなければ本来の香りは生まれないので

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