禅の視点 - life -

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人形供養ってどんな感じ? 僧侶と主催者に話を聞いてみた。 

人形供養、祭壇

人形供養とは

物にも魂は宿る。人はそう感じる。
だから親しんだ物は簡単に捨てるのではなく、供養を施して焚き上げる。
そのような慈しみの心から営まれる人形供養の実際の雰囲気が知りたくて、人形供養の現場を訪問してみた。


訪れたのは、知人の僧侶が毎月人形供養を勤めている、セレモニーホール・ルネス関(せき)。
「関」というのは、刃物で有名な岐阜県関市の関である。
普段はもちろん葬儀を執り行う葬祭場であるが、毎月「人形供養の日」を設けて、その日は葬儀をお休みしているとのこと


寺院での人形供養というのは聞いたことがあるが、葬祭場で人形供養を受け付けているところというのは、私の暮らす地域では珍しい。
やはり、葬儀と同じように祭壇を前にして人形供養を勤めるのだろうか……。
気になる。


人形供養の様子

人形供養が行われる当日。
セレモニーホール・ルネス関に到着すると、知人の僧侶、つまりは人形供養の導師を勤めている高橋定佑(たかはし・じょうゆう)さんとちょうど駐車場で出会った。



佐藤隆定
 定佑さん今日はじっくりと見学させていただきます。よろしくお願いします。


高橋定佑
こちらこそお願いします。
でも見られてると思うと、緊張しちゃうなぁ(笑)


加藤 修
こんにちは。
加藤と申します。岐裳会(ぎしょうかい:ルネスの母体のようなもの)の副社長を務めています。今日はよろしくお願いいたします。


佐藤隆定
 佐藤です。いろいろとお話をお伺いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。



挨拶もそこそこに建物へと入り、さっそく人形供養会場の下見をすることに。
普段葬儀を行うホールが人形供養会場ということで、一歩足を踏み入れみたら、祭壇がとんでもないことになっていた……!!



(なんじゃこりゃー!!)←心の声


人形供養,祭壇


人形供養,祭壇



佐藤隆定
 供養される人形って、こんなに沢山あるんですか!? 多くても50体くらいかと思ってました。


高橋定佑
人形供養をはじめた頃はもっと多かったですよ。この倍くらいはあったんじゃないかな。
今でも祭壇から溢れてるけど、その溢れ方が尋常じゃなかった。
捨てられない思い出の人形って思いのほか多いみたいですね。


加藤 修
最初の頃は日本人形が多かったですね。お雛様とか。
最近はぬいぐるみの数が増えてきて、半数以上がぬいぐるみになってきました。


佐藤隆定
 黄色いロディが祭壇に飛びかかっている……。
これでも200~300体ほどあると思いますが、倍っていうと、500体くらいってこと? それは……相当すごい光景だったことでしょうに……。
何日間でこれだけ集まるんですか?


加藤 修
基本的には2日間ですね。
人形供養の法要は毎月日曜日に行うのですが、その前日の土曜日から持ち込んでいただくことができるようになってまして、それと当日のを合わせて祭壇にお供えしています。


佐藤隆定
 たった2日間でこれだけの数になるとは……。
ちなみに人形供養っていうのはどういった内容になってるんですか?


高橋定佑
法要をはじめる前に少しだけ話をします。供養ということについて。
それから読経をはじめて、まずは『般若心経』。
次に『妙法蓮華経観世音菩薩普門品偈』を読んで、その時に列席されている方々に焼香をしてもらうって形かな。だいたいそんな感じ。


佐藤隆定
 なるほど、法事などの先祖供養よりかは短いけど、構成としてはほぼ同じ感じってことですね。



写真を撮ったりしていると定刻が近づき、定佑さんは準備のために控え室に向かった。
しかし見れば見るほど、すごい数だ……。

人形供養,祭壇


人形供養,祭壇


人形供養,祭壇


人形供養,祭壇



私はそのままホールで待つことに。
しばらくするとお袈裟をまとった定佑さんがあらわれて、法要がはじまった。


人形供養,高橋定佑


人形供養,高橋定佑


供養法要は正味20分ほどで、内容は先ほど定佑さんから聞いたとおり。
最初に少し話があり、続いて読経があり、焼香をする。
列席された方は10名ほど。


ホール内は静まりかえっていて、読経の声だけが朗々と響く。
参列者は配られた経本を目で追いつつ、時折前を向いては、別れを惜しむような、思いを断ち切るような、複雑な表情を浮かべていた。
それは実際の葬儀で目にする遺族の表情とよく似ていた。


法要終了後、控え室で定佑さんと加藤さんに話を伺った。


人形供養への想い

佐藤隆定
 人形供養っていうと、もっとこぢんまりとした雰囲気を想像していましたが、だいぶ本格的な供養儀式なんですね。
 というか人の葬儀と変わらない厳かな雰囲気でした。


加藤 修
そうでしょう。
ただ、最初はやっぱり人形そのものの供養をするという意識でいました。
それが段々、何度も人形供養を続けていくうちに、ちょっと違うのかなって。
本当は、人形を供養してあげたいという持ち主の気持ちも供養しなければいけないんだなって、最近わかるようになってきました。


高橋定佑
本当にそうですよね。
そこ(持ち主の心の供養)がもっと上手にできればいいなと思うのですが。なかなか難しい。


加藤 修
今日の最前列に座っていた方、法要の1時間も前から椅子に座って、ずっと泣いていらっしゃいましたね。
しかしそれも、まったく関係のない方からしてみれば、たとえばなんでドラえもんとか、人形1つで泣くんだろうなって思うんじゃないかと思うんです。
けれど人形に対する思い出や想い入れって、そんな浅いものじゃないんですよ


佐藤隆定
 わざわざ人形を供養してあげたいと思って持ってこられるくらいですからね。
想いが強いのはわかります。


加藤 修
人形供養を始めた当初はね、もしかしたら捨てる気持ちで持ってこられるのじゃないかと思っていたんです。生ゴミと一緒に捨てるのはさすがに忍びないから家で捨てないだけで。
それが、そうじゃなかった。


こちらが水を向けると、堰を切ったように思い出を話されるんです。
そういったことが何度もあって、捨てるなんていう気持ちじゃなかったってことが、やっとわかってきた
だから意識の面でも、徐々に意義深いものになってきているわけです。恥ずかしながら、やっと(笑)


佐藤隆定
 なるほど。それは実際に携わることでしかわからないことかもしれませんね。

この人形供養をはじめられたのはいつ頃なのですか? 


加藤 修
2017年の3月です。
だからまだ最近です。


佐藤隆定
 加藤さんが考えられたのですか?


加藤 修
もともと愛知県の本部(愛昇殿)では昔からやっていました。
それでこちらでも始めてみることにして、定佑さんに依頼をしたというわけです。
最初は真似事みたいなものだったんですけどね。段々と意義深いものになってきたわけです。


佐藤隆定
 あんまりお金のことを訊くのも気が引けるのですが、人形供養はおいくらで引き受けているのですか?


加藤 修
500円です。
1体ではなく、何体でも500円。
だから1人で何体も持ってこられる方もいらっしゃいます。


佐藤隆定
 500円……だいぶ安いですね。2日間も休みにしてるし、大丈夫なんですか?


加藤 修
まあ、人形供養で利益をというのは考えていませんから。
赤字にさえならなければいいかなと。
それに、ここに来たことがない方に一度建物に入っていただくというのも、私たちにとってはありがたいことなんです。


だって、普通だったら葬儀場に行ってみようとは思わないじゃないですか。
行ったことがある、というのは大切なんです。
どんなスタッフがいるのかとか。印象とか。


佐藤隆定
 先ほど実際の供養の様子を見学させていただきましたが、さすがに雰囲気が厳かですね。失礼ながら、人形の供養ということで、もうちょっとくだけた雰囲気なのかと思っていました。
会場にしゃべりながら入ってきた親子が、一瞬で空気を悟って黙っていました。
改めて、供養の重みを知った気がします。


加藤 修
だんだん葬式をしなくなってきているとか、家族葬になってきているという風潮がありますが、その反面、こうやって若い方も大勢人形供養に来られているんです
供養をしたいという気持ちはあるんです。
若い世代に対していろいろ言われていますが、全然捨てたもんじゃない。


高橋定佑
大切にしてきたものだからこそ、なかなか手放すことができない。
放すためには、やっぱり何らかのきっかけが必要なんだと思います。
そういった意味でも、人形供養というのはやはり大切な儀式なんだと。


加藤 修
人形供養もそうですけど、供養の意味を日頃から感じていただくことが大切かなと思います。
何を言っているのかわからない難しいお経を聞いているだけじゃなくて、まずは供養の意味を知っていただくことが。


ほとんどの人は供養とか法要とかいうと、どうしてもお経をイメージするじゃないですか。
そうじゃなくて、まずは供養があって、そのためにお経がある感じで。


私たちの仕事というのは、供養そのものを提供することではなくて、供養をしたいという気持ちを持った方のお手伝いをするという感じなんです。
まあ、私も最近ようやくわかってきたところですが(笑)


佐藤隆定
 たしかに、供養の意味を感じずに法要に参加しても、お経なんて耳に入ってこないでしょうね。
いや、耳には入ってくるけれど頭には入ってこないでしょうね。


加藤 修
でしょう。
だから人形だけじゃなくて、もっといろんな物の供養のお手伝いをしたいと最近思うようになってきました。
だって供養したいという気持ちは人形に限ったものじゃないはずですから。


佐藤隆定
 たとえば?


加藤 修
たとえば、野球のバットとかグローブとか。ラケットとか。
それだって、思い入れの深いものをただ捨てるのはちょっと……という方もいらっしゃるかと思います。


佐藤隆定
 私昔テニス少年で、家に捨てられないラケットが眠ってますが、今そういったものを持ってきても大丈夫なんでしょうか?


加藤 修
えっ? だ、大丈夫ですけど……まだそこまで幅を広げてはいません。
あんまり色々なことをやると、「なんというところだ」って思われてもいけないので(笑)
今供養の対象としているのは、人形・お札・写真とか。
あとは季節に合わせて、梅雨でしたら傘とか。


高橋定佑
お盆の時期の提灯とかですよね。


加藤 修そうそう。
現段階でバットを持ってこられる方はいないですね(笑)


佐藤隆定
 まあ、バット供養を思いつく人はそうそういないでしょうけど。
でも逆に、ルネスさんからそういった供養を提案すれば、思いのほか反応があるかもしれませんよ。


高橋定佑
それはあるかも。
でもあんまり細分化していくと、それはそれでちょっと難しいかもしれませんね。
「なんでも」って表現しちゃうと、それもちょっと変だし。


加藤 修
そうなんですよ。
だから今は、季節の物ならOKみたいな感じにしています。
年末年始に掛軸を買う方が多いので、そのときは掛軸も呼びかけるとか。
ほかにも何かいい物があれば教えてください。


佐藤隆定
 針供養とか、昔ながらの物はどうなんですか?
物を供養するということに対して、日本人の考え方はそう特別なこととは思っていない気もしますが。受け入れられやすいかと。


加藤 修
昔から目・鼻・口が付いているものは簡単に捨てちゃいけないっていいますよね。先人の教えとして。
それが60代くらいの人までは行き届いていると思うんですが、若い世代はちょっとわかりません。


あと、割れ物は今は受け付けてることができません。
陶器とか、人形のガラスケースとか。


加藤 修
それと、少し話が変わりますが、供養された方にはお守りをお渡ししようと計画しているんです。


高橋定佑
和紙で作ったお守りを予定しているんですけど、今職人の方にイメージを伝えてあって、もうすぐサンプルが出来上がってくるところです。
法要に参列していただいた方にお配りしたいなと。供養の証しみたいな感じで。


人形だけ置いて、法要には参加されない方も多いので、できれば皆さんに参加していただきたいですから。

加藤 修
お守りってキーホルダーみたいにバックに付ける方も多いですよね。

それで、たとえば街中を歩いていて、バックとかにそのお守りを付けている同士の人がたまたま出会ったときに、
(あれって人形供養のお守りじゃん。そうか、あの人も人形供養されたんだ……)
って、親近感が湧くと思うんです。言葉を交わさなくても。
ちゃんと供養しようと思う人なんだなって。


そんな輪が広がっていってほしいなと思っているんです。


佐藤隆定
 いい広がりですね。供養の輪が広がるというのは。


加藤 修
そうやって小さいお子さんとかにも供養というものを身近に感じてもらって、根付かせていきたいですよね。


佐藤隆定
 なるほど。
では定佑さん、最後に人形供養で一番大切にしていることをお願いします。 


高橋定佑
えっ? 急に核心を突くような質問じゃん。


佐藤隆定
 法要の最初に定佑さんが話したあの話、良かったですから。
「涙を流して人形を供養に出される、それだけの想いが詰まった人形であることを胸に、供養を勤めていきたいと思います」
っていう、あの言葉。沁みました。
真剣味が伝わるし、自分が人形の持ち主の立場だったら、そういってもらえると安心してお任せできます。


高橋定佑
うーん。
供養したいって気持ちを一生懸命支えること。とりあえず、それしかないかなと思っています。
普通だけど、供養の意味とか意義、方法についてを、身の丈で話すようにしています。


佐藤隆定
 供養の意義、本当に多くの方に感じていただきたいですね!
それからバット供養、ぜひ広めていきましょう!
どうもありがとうございました。


高橋定佑
ありがとうございました。


加藤 修
ありがとうございました。



※ルネスで行われている人形供養等の詳細については、直接ご連絡ください。