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旧暦とは? 新暦と何が違う? お盆の時期が異なる理由 

旧暦,新暦,月の満ち欠け

旧暦と新暦とお盆の時期

暦や年間行事の話になると「旧暦の〇〇にあたる日」という言葉が使われることがある。

たとえば国立天文台では、毎年7月7日に行われている七夕の行事が、たいてい梅雨のまったただ中に行われることから星を眺めることができず、本来の七夕である「旧暦の7月7日」に行うことを勧めている
伝統的七夕」と国立天文台が呼ぶ旧暦の七夕は、新暦に換算すると8月のどこかの日になる可能性が高い。


ちなにみ、今年2017年の伝統的七夕である旧暦7月7日にあたる日は、新暦だと8月28日。
2016年は8月9日だった。
2018年は8月17日になる。
と、このような話をしていると、やはりかなりの確立で「旧暦」という言葉が顔を出す。


しかしこの旧暦というもの、何となくは知っているが、詳しいことは知らないという方も多いのではないか。
旧暦ではどうやって日付を決めているのか。
新暦とは何が違うのか。


仏教行事でも、お盆を7月に行う地域もあれば、8月に行う地域もある。
沖縄のお盆は旧暦に則ったお盆が営まれている。
それらの違いを理解するポイントも、旧暦にある。
そんな旧暦について、ここでおさらいしておこう!


新暦と旧暦

私たちが普段目にするカレンダーは、ほぼすべてが新暦の日付となっている。
あえて作られた旧暦カレンダーというものも実際には存在するが、それは実生活上では混乱を招くだけなので、日本社会の正式な暦として用いられることはない。
現在の日本の暦は、正式に新暦を採用している


それで、まずはこの新暦とは何なのかについてなのだが、新暦とは地球が太陽の周りを1周する周期を1年と定めた暦の考え方をいう。
太陽を基準にすることから太陽暦ともよばれ、正確には太陽暦のなかのグレゴリオ暦となる。


地球が太陽の周りを1周する平均日数は、365日と6時間弱。
つまり365日と6時間弱を1年とする暦の考え方が、新暦という考え方の主軸である。

ユリウス暦

世界の国々のなかで太陽暦を採用していた国は、16世紀頃まではユリウス暦を用いていたところも多かった。
グレゴリオ暦の前に使われていたユリウス暦というのは、地球の周期、すなわち365日と6時間弱というこの「6時間弱」を、「6時間ちょうど」とみなして閏年の修正を施す暦法をいう。


つまり1年ごとに6時間のズレが蓄積され、4年で1日分のズレが生じることから、4年に一度閏年を設けて1年の日数を1日増やし366日とすることでズレを修正するという暦法である。
それって今と同じじゃないの? と思われたそこのあなた。
微妙に違うのだっ。


このユリウス暦は当時の状況を考えればかなりの精度を誇っていたように思える。
しかし千数百年も継続してユリウス暦の運用が続くと、「6時間弱」の「弱」の部分が蓄積され、実際の地球の運行とのズレ、季節とのズレが顕著になってきた。


地球が太陽の周囲を1周する正確な平均値は、365日と5時間48分45.179秒
ユリウス暦の1年よりも、実際には約11分早く1周しているのである
「弱」とはこの約11分のこと。


この11分が蓄積するとどうなるかを計算すると、約128年で1日分のズレが生じることになり、千数百年も続けば10日以上のズレとなる。
まさに「塵も積もれば山となる」で、「分も積もれば時となり日となる」ということである。


これではいけない、ということでユリウス暦に代わる他の暦法が議論され、グレゴリオ暦が発案されることになったというわけだ。

グレゴリオ暦

グレゴリオ暦とは、ユリウス暦の「4年に一度閏年を設ける」という点に改良を加えた暦法。
太陽暦なので1年の日数はユリウス暦と同じ365日だが、閏年は4年に一度ではなく、「400年間に97回閏年を設ける」とした点が新しい。
ユリウス暦は4年に一度の閏年なので、400年で100回になるが、そこから3回の閏年を省くことで、暦と地球の運行とがかなり近似することが判明したのだ。


それだけ? と思うようなマイナーチェンジに思えるかもしれないが、それくらいユリウス暦の精度が高かったということでもある。
わずかな改良で事足りたのだから。
なので要点を言えば、グレゴリオ暦とは、400年を一周期と考え、その間に97回の閏年を置く太陽暦となる。
うーん、細かい話だ。


グレゴリオ暦が考え出されたことで、地球の運行と暦の関係はほぼ一致できるようになった。
グレゴリオ暦に関する残る問題は、「400年に97回の閏年をどうやって均等に、かつわかりやすく覚えやすく配置するか」に絞られた。


しかしこれもそう難しい話ではなく、通常は4年に一度のペース(4の倍数)で閏年を置き、100で割り切れる年だけは閏年ではなく平年と同じく365日とし、なおかつ400で割り切れる年を閏年とすることで解決できた


たとえば西暦1700年は4の倍数なので通常は閏年になるが、100で割り切れるので平年とする。
1800年も平年。1900年も平年。
そして2000年だが、これは100で割り切ることができるが、400でも割り切ることのできる400年に一度のレアな年なので、平年ではなく閏年とする。


すると、100、200、300は平年400が閏年となり、400年間に閏年は97回となる。
これが太陽暦をベースにした現行の暦、グレゴリオ暦の概要である。


旧暦と太陰暦と太陰太陽暦

太陽をもとに暦を考えるのが太陽暦であったのに対し、旧暦は月をもとに考える暦法をいう。
月の満ち欠け、つまり新月から次の新月までを1ヶ月と考えるのが旧暦のベース


と、それだけだと「旧暦=太陰暦」と解釈されてしまう可能性があり、事実、旧暦とは太陰暦だと思っている方は多い。
ただしそれはまったくの間違いである
旧暦とは太陰暦ではない


旧暦とは、太陰太陽暦なのである。
この太陰暦と太陰太陽暦の違いこそが、旧暦を理解する最大のポイントかもしれない。

太陰暦

太陰暦とは、上記とまったく同じ復唱になってしまうが、新月から次の新月までを1ヶ月と考える暦法をいう。
月の満ち欠けを観測すると、新月から次の新月をむかえるまでに、日数にして29日~30日かかる


29日の場合は小の月、30日の場合は大の月と呼ばれ、小と大は不定期にやってきた。
新暦では、4月は30日、5月は31日、6月は30日という感じで1ヶ月の日数が決まっているが、陰暦は定まっていないのである。


太陰暦の1ヶ月は平均して約29.5日となり、12ヶ月で354~355日
1年は実際には365日と6時間弱であることを考えると、太陰暦はそれよりも約10日余り少ない


そのため太陰暦を用い続けると、実際の季節と毎年約10日ずつどんどん乖離していき、農業などの基準として非常に重要であるはずの暦がまったくあてにならないものになってしまう
純粋な太陰暦は農業などの基準に用いるには問題が多いのである。

太陰太陽暦

太陰暦の問題点、すなわち年に約10日ずつ起こり続ける実際の季節との乖離を修正するために考え出された暦法が、太陰太陽暦である。
旧暦とは太陰太陽暦のことである、とはすでに述べたが、つまり旧暦とは太陰暦の修正版ともいえるものなのだ。


それで焦点は太陰太陽暦とは何かということなるのだが、これは名前のとおり、太陰暦をベースにしながら、修正方法として太陽暦を参考にする、という暦法である。
これだけでは何のこっちゃ全くわからないので、具体的に考えていこう。


まず、1ヶ月は太陰暦と同じく、月の満ち欠けによって決定する。
なので1ヶ月は約29.5日となり、1年は約354~355日。


すると毎年約10日余りのズレが生じるものだから、太陰太陽暦ではこの約10日の誤差を埋めるために、閏月というものを考え出した。
閏年ではなく、閏月。
19年に7度、この閏月を置く年をつくることによって誤差を解消させ、太陽が基準となる季節と暦の関係を合わせたのである。
つまり太陰太陽暦では、約3年に一度の割合で、1年が13ヶ月となる年が出現していたのだ。


この事実は、知っている人にとっては
「何を今さら大声をだして」
と、当たり前の既成事実にすぎないのだが、知らない人にとっては
「1年が13ヶ月になる年があった!? それも約3年に一度の頻度で!!?」
と、驚愕の事実となるだろう。


閏月が生じる年は1年が13ヶ月になるが、12月の次に13月という月が出現するのではなく、なるべく季節が適切になるような時期に閏月を追加する形で置かれていった
旧暦では1・2・3月は春、4・5・6月は夏、7・8・9月は秋、10・11・12月は冬と決まっていたので、そのようになるよう調節する時期に閏月を置いたのである。
4月の後に閏月を置くのが季節の維持にふさわしいのなら、4月の次に5月ではなく「閏4月」を置く、というような具合だ


ちなみに2017年は、旧暦でいうと閏月の置かれる年となっており、新暦の6月~7月に旧暦の閏月(閏5月)が出現する
新暦6月1日は旧暦の5月7日にあたり、新暦6月23日は旧暦の5月29日(小の月の最終日)。


なので通常であれば新暦6月24日は旧暦の6月1日になるはずなのだが、閏月の追加によって閏5月1日となっている。
5月が終わって、閏5月がはじまるのである。


そんな……5月生まれの人、誕生日が2回連続で来ちゃうじゃん! 
と心配される必要は、もちろんない。
閏5月はあくまでも閏月であって、5月ではない。


それに日本が旧暦を採用していたころ、年齢は数え年であったため全員が正月1月1日に揃って年をとっていた
なので仮に閏月に生まれても、年をとるのは1月1日だから問題なし。


現在の年齢は満年齢で考えられる場合がほとんどのため、誕生日はけっこう重要。
したがって満年齢は太陽暦と相性のいい加齢方法といえる。
逆を言えば、数え年は旧暦と相性がいい。
数え年と満年齢についても掘り下げると面白いので、興味のある方は下の記事を参照していただきたい。
www.zen-essay.com


ちなみに余談ではあるが、新暦の閏年の2月29日に生まれた人は4年に一度しか誕生日が来ないということがたまに言われるが、法律上、加齢は誕生日の前日の午後12時(午前0時)になされる。
つまり2月29日に生まれた人は、翌年2月28日午後11時59分59秒の次の瞬間に加齢されるので、法律上、人は正確には誕生日の前日に年をとるのである。
だから29日がやってこなくても、28日の時点で年は増えている。


もう一つ余談であるが、なぜ新暦のなかで2月だけ28日と日数が少ないのかというと、古代ローマの暦法では2月が1年の最後の月と考えられており、そこで帳尻を合わせるような方法がとられていたからである
現代の暦法のルーツをたどると古代ローマの暦法にまで遡ることができ、そんな大昔の名残が現代でも28日という形で継承され続けているのだ。
2月以外は30日の月(にしむくさむらい:2・4・6・9・11月)と31日の月なのに、2月だけ特別なのは、そのような理由による。


お盆をいつ行うか

新暦と旧暦の基礎というか重要なところは以上である。
最後にこの新暦と旧暦の現状を述べるに好例となるお盆の時期について述べておきたい。


仏教行事の1つであるお盆は、正確には旧暦の7月15日を指す行事であり、日本では13日~15日・16日にかけて行われる先祖供養の行事として定着している。
お盆を行う時期について、地域によって違いがあるのは有名な話。
そしてこの違いこそ、新暦と旧暦の微妙な関係をあらわすのに最適なので、お盆という行事を通して新暦と旧暦の現状をみてみたい。

七月盆

まず、東京などの都市部では、お盆は7月に行われることが多い。
それは、本来は旧暦の7月15日にあたるお盆を、7月15日という数字のみそのまま残して新暦のカレンダーに当てはめた結果である。


旧暦の7月15日が新暦で何月何日になるかは、新暦のカレンダーを見ただけではわからない。
しかし一々調べるのは非常に面倒。
かと言って、お盆をなくすわけにもいかない。


そこで単純に、数字だけそっくりそのまま残したというわけである。
このことから、7月に行われるお盆は「七月盆」「新暦盆」などと呼ばれたりする。
※「新盆」とは、亡くなった方がはじめて迎えるお盆を指す言葉なので、「新暦盆」とは言っても「新盆」とは言わない。


冒頭でも述べた七夕も、現在は新暦の7月7日に行われている。
ただしそれは七月盆と同様、数値のみを残したのであって、季節との兼ね合いによって決まっていた旧暦の七夕とは季節感が異なる。
言うなれば現代の七夕は「新暦七夕」であり、本来の七夕の日にちではないのである

八月盆

お盆の話に戻るが、地方でのお盆は8月13~15・16日に行われることが多い。
旧暦7月15日は、新暦では8月~9月になることから、なるべく旧暦との誤差を少なくするために1ヶ月遅らせた8月15日をお盆と定めた結果である。


よく「旧暦は新暦の1ヶ月後」と言われることがあるが、それは旧暦が平均的に新暦の1ヶ月前後になることが多いというだけの話で、実際には1ヶ月弱~2ヶ月弱後と幅が広い。
「旧暦と新暦は1ヶ月の差」というわけではないのである。


一月遅れで行事を行う地域が多くあることから、いつしか「旧暦は新暦の1ヶ月後」という考えが定着してしまっている感があるが、それは本質的な旧暦の考え方ではない
ただ単純に1ヶ月遅らせた月遅れというだけのこと。
新暦の8月15日が旧暦の7月15日なのではない


8月に行われるお盆を「八月盆」とか「月遅れ盆」とか「旧盆」と呼ぶことがあるが、「旧盆」の呼び名は語弊があると言わざるをえないだろう。
旧盆とは「旧暦のお盆」という意味であるが、8月15日が旧暦のお盆にあたる日なのではない
なので8月のお盆は「八月盆」か「月遅れ盆」のどちらかで呼んだほうが適している。
少なくとも「旧盆」は適していない。

旧盆

ここまで月遅れ盆を旧盆と称することに反対するのは、日本ではちゃんと旧暦の7月15日に合わせてお盆を営んでいる地域が存在するからである
つまり、正式な旧暦のお盆「旧盆」が、実際に存在しているのだ。
それが、沖縄。


沖縄のお盆は、旧暦の7月15日を新暦にあてはめて営まれている
旧暦を新暦にあてはめることから当然毎年異なった日にちにお盆がやってくることになり、そのように旧暦にそってお盆を営んでいるのである。
これこそまさに「旧盆」と呼ばずして何なのか。


沖縄のような正統な旧暦のお盆が存在している限り、月遅れ盆を「旧盆」と呼ぶのは適切ではない。
お盆休みの時期にお盆がないと、お盆に仕事が休めないという問題が生じてくるから実際には旧盆を普及させる必要はないかもしれないが、せめて「旧盆」という称号だけは沖縄のお盆の在り方に贈呈すべきである。

  • 7月のお盆。
  • 8月のお盆。
  • 旧暦のお盆。

それらの時期の違いには旧暦の存在が深く関与している。
仏教行事のみならず、日本の伝統行事のなかにはこのような旧暦に関するものが多くある
そして旧暦の意味を知ると、それらの行事が少し身近なものに感じられるから面白い。